法律のいろは

2022年5月25日 更新損害賠償請求のご相談

士業が説明義務や契約上の義務としてミスに賠償責任を負う範囲とは?(民事信託に関し司法書士が賠償責任を負う旨認めた裁判例から)

○契約上負っている義務と説明義務違反の違い・賠償責任への影響

 弁護士を含め各種の士業は専門家として,各自の専門分野について契約上履行するべき義務の他に,一定事項素人であるご依頼者の方に説明義務などを負うとされています。違反が存在しご依頼者に損害が生じると賠償責任を負うことになります。委任契約書上賠償義務の上限を定めておくことでの対応も一定の程度意味があります。

 問題となるのは,特に委任契約書もなく見積書程度しか存在しない(そもそも全くない場合もあります)場合に,契約で履行するべき義務の内容が何であったのか・そこに含まれなくても説明義務等の違反で賠償義務をどこまで負うのかが問題になります。

 

 今回は比較的最近民事信託の組成(契約スキームの作成等)にかかわった司法書士・行政書士の方に説明義務違反を根拠に賠償命令を出した裁判例(東京地裁令和3917日判決)をもとに,こうした話題について触れていきます。ちなみに,司法書士の方への確認義務などはここ数年登記関係について裁判例や最高裁判例が出ており,今回は登記以外の業務にかかわるものです。

 

 

 

 結論から言えば,後で問題となった義務の内容が説明義務違反と似たものであれば,賠償責任への影響はありません。両者ともに違反に対して賠償請求の原因となる意味では同じです。ただ,実施できるかぎり,実施を求める根拠となるのは契約上の義務に含まれている場合です。ただ,実際には賠償義務の根拠になるのであれば履行による挽回が可能である限りは挽回へと向かうのが通常と思われます。

 

 契約上の義務とは口頭・書面での委任契約で専門家がご依頼者の方に負っている業務内容を指します。通常ご依頼の前にご相談が存在し,そこで不安に思っていることや対応策が示され,そこにご依頼者が納得すれば依頼になるかと思われます。依頼内容について契約書を作成する場合には,契約書で依頼業務と書かれている点が依頼内容になります。何かしら特記事項があれば記載すべきものですから,ご依頼する側も気になるならば記載を求めるべきです。

 ただし,記載されていても,曖昧な記載の内容である場合には,結局何を依頼しているのかがわからなくなりますから,後でトラブルのもとになります。もちろん,弁護士の顧問契約のように,法律相談一般のようなものも,そこに対応予定というならば問題はありませんが,外延が分からないのであるならば記載は必要です。

 そして,記載をきちんとしている場合には,いかに事前の打ち合わせや相談時に出ていることであっても,契約上の依頼事項からは外れることになります。

 

 これに対し,説明義務は異なる面があります。これは,専門家と素人のような交渉力や情報力に大きな違いがある場合に,信義に基づいて負う相手が特に重視している利益への配慮や説明をするべき義務と裁判例上考えられています。したがって,士業とご依頼者だけでなく,不動産業者や建築業者・コンサルタントと顧客等同じ場面では同じように当てはまります。

 こちらは,先ほど契約書にきちんと書けば外延がはっきりすると書きましたけれども,はっきりした部分の外にある事項について,ごく一部専門家などに配慮(違反には賠償責任を負わせる)形で救済を与えるものということができます。サービス提供側は後後のことを考えておく必要が出てきます。

○業務分野の外延が広い専門家の説明義務の範囲をどう考えるのでしょうか?

 司法書士の方は法令上は登記や供託関係等の専門家とされていますが,成年後見・財産管理の専門家とされているわけではありません。そのため,法令から当然に財産管理の方法の一つである民事信託に関する何かしらの大きな配慮や説明義務も当然に・どこまで負うのかは出てきません。行政書士の方のように,行えない業務も多数あるものの行うことができる業務も相当数ある専門家の場合にも同様のことが言えるかもしれません。

 今回触れる裁判例のケースでは,結論として契約上の義務はないけれども,説明義務違反を根拠に司法書士の方(行政書士資格もあり)に一部賠償精勤を認めています。ここでは,司法書士の方の法令上の業務分野や義務の規定(司法書士法の内容)の他に,ここ10年余りの司法書士の行迂回団体などの活動内容や民事信託分野への取り組み状況(統計)をもとに司法書士の方一般の民事信託への習熟やそこを根拠にした説明義務を導き出しています。とはいえ,弁護士でもそうですが,各士業の方も力を入れて取り組む分野は別々ですから,問題となった司法書士の方の売り込みや名のり方(福祉関係の専門家・民事信託にかかわりのあるなどのやり方)も考慮して,問題となる司法書士の方がどこまで民事信託に成熟し,配慮や調査をすべき義務を負いそれが可能であったのかを判断しています。

 

 問題となったケースの概要は判決文からは以下の通りです。賠償請求を行った方が民事信託の委託者(財産管理を任せる方)+受益者(財産管理の利益を得る方)となり,受託者(財産管理を任される方)をその息子の一人とする民事信託契約の組成などを問題となった司法書士の方に依頼したものです。この委託者の方は不動産のオーナーであり,所有物件の一つ(管理を委託する財産のひとつ)に大きな修繕が数年以内に必要になることが強く予測されるけれども,その費用は受託者が管理する財産へ融資をしてもらってそこから賄ってほしいという希望を強く持っていて,打ち合わせ時でもこの点で協議がされていました(打ち合わせ時の資料が証拠となっています)。

 この融資を受けることができるのか・そのための注意点の調査(信託内融資と呼ばれる先ほど挙げた融資はそこまで普及しておらず,対応していない金融機関や前提条件が厳しい金融機関が相応にあります)が不十分・信託契約時の不備により,結局融資を受けられなかった⇒別途不備を補う等して信託契約のやり直しなどを行う必要が生じたというものです。ここで無駄になった費用を主に賠償請求したものがこの裁判になります。

 

 主な争点は,契約上の義務あるいは説明義務として,信託契約後に管理財産に対して融資を受けることができるよう,調査や対応する義務があったのかどうかです。このほかに,仮に義務と負いその違反があるとして,無駄になった費用の範囲というものもあります。

 契約上の義務というためには,先ほど触れた契約書の記載内容や他のやり取りその他から認められる必要があります。このケースでは見積書などを踏まえても抽象的な記載であったことや,打ち合わせ時の相談事項があっても当然に依頼内容に含まれるかは不明であることを根拠に契約での依頼内容ではないと判断しています。

 しかし,先ほど触れた司法書士の方一般の民事信託業務への関与の度合いやその司法書士の方の営業状況(要は,民事信託の専門家と名乗って営業などしていることとその内容)を考慮して,相当の業務関与や研修で状況を知ることができたことを根拠に説明義務を認めています。管理財産に融資を受けることができるのかは重要な点となります。これは,民事信託によって別の方に管理を任せると,委託者の財産から分離をしてしまいます。民事信託前であればその不動産(修繕とその資金を必要とする不動産)を担保にお金を借りれたものが借りられないリスクにつながるため,管理を任された財産(受託財産)について融資を受けることができないと融資自体を受けられなくなってしまう⇒目的や重視した点が達成できなくなるためです。金融機関としては,「信託口口座」と呼ばれる,受託者(管理を任された方)自身の財産と区別された口座が設定されていないと,融資⇒回収のための相殺を行うことができないので,「信託口口座」の設定ができるのかが重要となります。

 この「信託口口座」も設定を含めて消極的な金融機関やハードルが存在する金融機関の状況は民事信託に関わる方が受ける研修や講習その他で議論されていたという点から,設定ができない⇒融資を受けられない点を考慮しての調査確認をすべきという話につなげています。たしかに,現在も信託口口座の設定や信託内融資をしてくれない金融機関があるという点と対応は民事信託に関わる士業で議論されている点です。契約に至る経緯(つまり,相談や打ち合わせ段階)でご依頼者の要望は聞いて解決案を考えていくはずですので,ここで把握していた事情をもとに当該専門家が把握しているだろう専門事項は重大な義務の前提となる話になります。

 このケースでは,「信託口口座」⇒融資の流れがあり,融資を受け修繕を行うことが信託を使った財産の管理を行う上で重視している事項であるならば(そう要望が出ていたならば),「信託口口座」⇒融資へと向かうことができないリスクは確認⇒配慮と説明はすべき事項となってきます。もちろん,財産管理には相続対策もせっとになっていることが多く実際税理士の方も信託を含めて関与していることが多く,税務対策の関心とともに他の要望も把握と対応・事前調査と確認が必要になります。

 ご依頼者が財産管理に関する業務をこれまで行っており相当程度の知識や経験がある場合には,専門家との格差がなくなるので話が変わってきますが,少し勉強している程度ではない場合になろうかと思われます。

 

 ちなみに,このケースでは,司法書士の方が信託契約を定める公正証書に委託者の代理人として関与していることが問題となっています。公正証書遺言には遺言者本人の意思が口伝えとともに不可欠となっており,同様な財産管理や処分(遺言の代用となる信託も存在します)の意味を持ちかねない信託についても同様になすべきとする考えが有力に存在します。そのため,代理人としての関与には有効性の問題から「信託口口座」等が設定できないという問題が出てきかねません。実際,このケースでもそこが問題となっています。

 

 

 このケースでは,その業務自体にその士業の職種の実態の関与状況やその方(士業,こちらは他のコンサルタントその他の方も該当します)の営業状況や業務状況によって,専門的知見を持つべき方なのかなどが考慮されます。最近相続関係は民間資格を含め様々な資格が設けられ,様々な研修やセミナーが行われています。営業活動やそのための肩書は重要ではありますが,実際業務を行うにあたってはその点が責任根拠にもなる点には注意が必要です。賠償額の上限を含めるのはいいですが,重過失のハードルが下がる可能性やそもそも契約でこうした項目を入れる点を問われることもある点は頭に入れておく必要があります。この分野の報酬は大きくなる傾向になりますから,そこに見合う責任は出てくるのではないかと思われます。

 そもそも,財産管理などは実際にはBtoC取引ですので,業務提供側の責任制限には限界が大きい面も無視はできないでしょう。

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