法律のいろは

2021年12月13日 更新時事問題(法改正・最新の裁判例など)

隣地の利用権や隣近所の利用権に関する法律の改正(所有者不明土地に関する規制・続編)

はじめに

  令和3年に改正された民法の内容の一部に,「相隣関係」の規制の変更があります。これ自体は必ずしも所有者不明土地への対策ではありませんが,ライフライン設置のための隣地の利用に関する事項が含まれていることや,そもそも重要な話ですので,今回触れていきます。

そもそも,「相隣関係」の規制とは?

 住宅に限りませんが,自宅の利用に関して隣の家の敷地を使わざるを得ない場合や,隣接する土地から土砂や水が流入した場合の対応など,近くの土地等の所有者との間で利用その他が法律で規制されています。これこそが,相隣関係の規制と呼ばれるもので,今回の改正前も通行地を確保するための利用や自宅修理などのために隣の敷地を利用すること・水の流れに関する規制・境界標や境界部分の利用に関する規制が含まれています。

 

 建物の建築については建築基準法の規制もありますが,目隠しの規制等が定められています。境界部分の利用の規制は案外知らないところですが,重要です。ことに,隣地が高いところにある場合,そこからの水の流れを低いところにある土地の方は甘受しないといけなくなります。そのため,水が流れ出ていることへの何かしらの請求は制限される(土砂が流出した場合の撤去は別ですが)点にも注意が必要です。

 

 例えば,現在の法律でも,自宅の修理のために隣地の利用を請求することはでき,損害が生じた場合には補償する必要があるといった規定はあります。家に立ち入ることまでは相手の承諾がないとできません。しかし,修理など法律で定められた目的以外で利用できる場合があるのかどうか・利用の意味が曖昧などの問題があったところから,こうした点の改正がなされています。あわせて,越境してくる枝や根の切除に関するルールも整理されました。

改正の内容とは?

 先ほど少し頭出ししましたが,例えば,隣接する土地の地下を通す形でライフライン(水道管やガス管等)を通す場合に,隣接する土地の利用をすることになります。この場合の利用権の内容や,利用の前に行っておくべきこと,何かしらの損害が生じた場合の対応内容などが定められました。

 利用できる場合としては,境界標の調査や測量のための利用・ライフラインの設備を設置する場合が明確化されました。境界標の調査や測量は,境界に関する認識が異なる場合にはトラブルになる可能性が大きいところですが,利用権限は明確化されました。利用する際に,隣地を掘り起こすことができるかは一つの問題ですが,肯定するという見解が存在します。とはいえ,境界に関する認識の対立が大きい場合,何が必要な範囲での掘り起こしなのかといった点で対立が生じる(例えば,境界に関する標識や根拠を隠滅しているのではないかという疑いからのトラブル)可能性がある点には留意が必要でしょう。

 ライフラインの設置には電気ガス水道の他にインターネットや電話回線の設置が含まれます。ただし,この設置のために隣地のどこも利用できるというわけではなく,隣地の所有者にとって最も損害が少ない場所の利用をすることが要求されています。公道に通じる私道があればその部分を選択することになるでしょうし,注意が必要です。

 利用方法も整備されており,いきなり隣地を利用できるわけではない点に注意が必要です。建造物に侵入すれば建造物侵入罪になりますし,犯罪にならなくてもトラブルになる可能性があります。改正により,予め隣地の所有者に対して利用目的・どの場所を・どのような方法で利用するかの通知が要求されています。ここでの通知は,所有者不明土地でも要求され,賃貸に出されている土地の場合には所有者・賃借人双方に対して要求されています。

 所有者不明土地についてどうやって通知をするのかという気がするところですが,法律上公示送達による意思の表示というものが定められており,こちらを活用します。この場合は所在不明であるということを裁判所に示したうえで裁判所に公示送達(掲示板に掲げてもらう方法)してもらうことになります。

 ちなみに,ここでいう通知は事前ならば直前でもいいかと言えば,そんなことはありません。相手に対応をどうするか準備を与える意味がありますので,ケースごととはいえ少なくとも1週間前である必要はあるでしょう。

 あらかじめ通知しても相手が同意をしてくれるとは限りません。同意があれば問題ありませんが,この場合にどうすればいいのでしょうか?結論から言えば,妨害禁止の裁判手続きをとる必要があります。もちろん,こちらは確定的に拒否され交渉の余地もない場合にとる方法となりますが,利用する根拠があるときには裁判手続きで認められる可能性が高いこと等を示して話し合いをすることが最初の話になってくるでしょう。

 ここで裁判手続きに行く場合には,相当に近隣トラブルが発生しやすい可能性があるものと考えられます。ちなみに,公示送達の場合には相手が承諾する(拒否する)ことは考えにくいですが,特に所有者不明土地などで誰も利用していないケースでは,先ほどの裁判手続きをすることなく利用することに問題がない場合もあるでしょう。それでも建物がある場合には承諾がない以上立ち入りは避けた方がいいでしょう。

 さらに隣地の利用で相手に損害を与える場合のお金の負担や支払いに関しても規定が整備されました。

 隣地にある木の枝や根が伸びてきて邪魔になる場合にはこれまでも規制が存在しました。これまでは,枝については隣地の所有者に切除するよう要求できるが自らは切除できない・根は切り取ることができるというものでした。この場合の面倒な点は,枝について隣地所有者が拒否した場合,枝の切除は請求の裁判を起こし,請求を認めてもらって強制執行という手続きで行うしかないという点です。勝手に切ると犯罪になる可能性や損害賠償請求を受ける可能性もありました。特に隣地が共有の場合には,共有者全員の同意が必要であり,相当に面倒な話となっていました。

 改正によっても原則は,隣地の所有者に枝を切ってもらうよう請求するという点は変わりません。ただし,例外的に自ら切除できるようになりました。例外は次の場合です。

①  一定期間内に切除するよう請求したが応じてくれない場合

②  隣地所有者が所在不明の場合

③  緊急やむを得ない事情がある場合

 このうち,③はそう簡単に認められるとは限りませんので,基本は①か②になるかと思われます。②はいわゆる所有者不明土地は該当しますが,所在不明といえる根拠を整理しておく必要があるでしょう。①については,口頭で請求しただけの場合は避けておくことが無難です。というのも,相手が応じない場合にはトラブルになる可能性が高く,言った言わないの話になることが予測できるためです。例外にあたるというのは切除する側が示す必要がありますので,書類など証拠で残る形で行っておく必要があります。

 以上のように,隣地の利用や関係に関する法律の規制が一部変更整備されます。隣地の関係は気にする際トラブルになっていることも多く,規制の内容について良く注意をしておいた方がいいでしょう。

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