法律のいろは

2020年10月27日 更新時事問題(法改正・最新の裁判例など)

パート社員や契約社員の待遇の違いとリスク(最高裁判所の最近の判断について)

 働き方改革関連法の流れの一つに,「同一労働同一賃金」と呼ばれるものがあります。この言葉自体はこれまでも特に契約社員の方について妥当し,ここ数年問題となってきた定年後再雇用の話や郵便局関連その他の話で問題となってきました。実際には,給料だけではなく,研修の内容や機会・取得できる休暇などあらゆる待遇で問題となってきます。

 既に行政からガイドラインが出る一方で,定年後再雇用の場合など一部のケースでは最高裁判所の判断が出ていました。今回は,ケースごとの判断として退職金とボーナス・日本郵政における各種扱いについて判断をされています。報道では一緒くたにした話がされていますが,基本となる事情に応じてかなり異なる話になる点には注意が必要でしょう。

令和2年10月に出された判断の概要とは?

 10月13日に,それぞれ別の会社(一部は大学)におけるボーナスや退職金の規定・15日には日本郵便に関する判断(こちらは扶養手当や年末年始休暇など)が出されています。

 

 いずれも働き方改革関連法による改正前の話で契約社員に関する事項です。ほとんどの小さな会社では定年後再雇用以外に契約社員を採用しているケースは少ないのではないでしょうか?せいぜいが,パート勤務の方と正社員(パートではなく,契約社員ではない方)だけであるという場合であろうかと思われます。

 関係ない話かというと,パートに関してもここでいう話が該当するようになりましたので,無関係とはいかないでしょう。

 

〇退職金やボーナスなど

 ここで今回判断をされたケースの内容について簡単に触れておきます。一つ目はボーナスの支給規程の有無(や病気やけがによる休職制度の有無や休職中の給与一部支給の有無)が問題なったものです。問題になったケースでは,支給されていない給与やボーナスの支給をフルタイムの契約社員が求めたもので,正社員にはボーナスの支給がある・正社員のみ休職制度活用中でも一部給与が出る点が不合理かどうかが問題になっています。

 一連の裁判例で,業務内容やそれに伴う責任の内容・人事異動によって業務などが変わる程度・その他の事情からみて,雇用契約期間の定めの有無による待遇の違いが,その待遇の趣旨に照らして不合理といえるかどうかが問題とされてきました。

 このケースでは,似たような事務作業や雑用を行う面があったものの正社員にはほかの部門との連携や顧客対応その他で業務負担が少し重い面があり,異動も業務命令として行われるのが原則であるのが正社員であった・正社員が行っていた業務のうち軽い業務を契約社員に置き換えていく,契約社員から正社員への登用制度を設ける形も整えてきたというその他の事情が考慮されています。結論として,不合理とまでは言えない(待遇の差を長い勤務を続けることへの見返りというボーナスの点から取らせても,功労の点などで差を設けることの説明がつく)と判断しています。重要なのは,基本給を含めた全体の給料を業務や責任の程度や異動などの点から見て一応の説明がつくのがどうかという話になります。

 

 基本給の制度はそれぞれの会社の人事制度や評価制度などをもとにしており,正社員かパートか契約社員で要求される内容に応じて差を設けることは可能です。ここでいうボーナスも基本給の何か月分など会社の業績状況や基本給と結びついた点が存在します。期待する役割などで一定の差が存在し説明可能なものであれば,よほど給与総額の差が大きすぎない限りは不合理とは言いにくくなります。業績連動部分や貢献連動部分が大きくなれば会社業績や貢献部分との兼ね合いが大きくなり,不合理とは余計言いにくい部分が出てきます。

 今後はパート従業員の方についても同様の話が当てはまりますが,勤務時間の絶対的な長さに伴う差が一応の説明がつけば不合理とは言いにくい面が出てきます。それは,同様の性格を持つ退職金についても言えます。

 

 ちなみに,休職制度の有無や期間中の給与の一部支払いの有無に違いも不合理ではないとされています。休職制度自体は就業規則に制度がなければ存在しない(その意味で自由度の高い制度)ものですが,期間中の給与の一部支払いをするかどうかも自由にできるものです。先ほどの業務や責任・異動範囲の違いもありますが,特に勤務期間が短い(更新があっても)場合には長期勤務を図れるようにするという休職制度(そのために,病気欠勤が続いてもすぐには退職にならないようにする制度)の必要は薄くなってくる点が重要です。単なるパート勤務(期間の限定なしで実際に長期勤務している方)については,この面が当てはまらなくなります。そのため,今回の判断があるからパート勤務には休職制度がないことが問題ないとは当然には言えないでしょう。

 

 二つ目の判断である退職金の有無についても結論から言えば,不合理とは言えないと判断がされています。こちらは,地下鉄構内での販売業務その他に従事する方(フルタイムの契約社員)の方から,退職金部分その他のお金の請求がされた件です。退職金は長期勤務を前提に長い間の貢献や給与の後払いなど様々な性格を持ちます。制度を設けるのかどうか・設ける際に保険を使うのかどうかなどは会社側の裁量がある話になります。給料の後払いということであれば基本給を設ける際の人事制度の設計の影響を受けますし,貢献を還元するならば長期勤務を前提とせざるを得ないという点があります。

 このケースでも,一部業務内容や人材配置に関する違いが存在することや前記の点を踏まえて判断をしています。

 

〇夏季休暇や年末年始勤務手当など

 こちらは,いわゆる郵便局での契約社員の方が一部手当や休暇といった待遇面での違いを違法として,手当分などのお金の請求を行ったものです。結論としていずれも不合理とされています。こちらは,年末年始の勤務に対する手当や夏や冬の休みの制度の有無,一年間で病気による休みについて有給の休暇があるかどうかの違いについてです。年末年始はいわゆる年賀状対応などについての勤務であることや夏や冬の休みを設ける理由には,長期勤務を期待するなどの点で説明できない点が多いこと・病気による休みについて一律存在しないという点は契約社員でも一定程度の勤務はあるところから説明できないため不合理とされています。

 

 年末年始の勤務や実質割増給与という性格があり,ここで勤務をしていれば差を設ける理由がないこと・夏や冬の時期に休みを確保する点も休養確保は特に勤務期間で差を設ける理由はありません。最後の病気休暇は,先ほどの休職制度とは大きく異なります。休職制度は可能な限り退職を避け長期勤務を図るための制度であるのに対し,こちらは病気欠勤(休職になるほどではない短期のもの)について給与を支払うというもので,長期勤務を確保する(配置転換や業務などの違いを反映)点から特に正当化は難しくなります。あくまでも全く休暇を確保しない点のみが問題とされているのにすぎません。

今後への影響は?

 結論として言えば,現在出ている各種ガイドラインにそこまでは大きな影響はないように思われます。結局のところ,不合理といえるかどうかは,各種待遇の趣旨や業務や責任の内容・配置変更の違い・その他説明をした内容や協議内容・その他制度を設けた理由などから見て一応の説明がつくかどうかという点で変わらないためです。

 これらの裁判例とは違い,パートの契約期間の限定なしの方についても同じ話は当てはまりますが,責任の内容その他の違いは比較的説明つきやすい点はあります。会社側には待遇の差の説明義務が設けられていることから,これらの説明を一応の合理性を持った内容で準備できているか・説明や話し合いの機会を持ったか(交渉もありえますが,あくまでも紛争予防の点から重要です)を確認する必要があるでしょう。一応の合理性がある話で会社の制度設計の裁量のある範囲(各種手当や休暇・研修については個別の趣旨を問題にしやすい)であれば不合理という話はしにくいという点があります。

 一連の裁判例からも特に人事制度や評価制度について会社側に裁量があることを前提に,趣旨が特に問題となる手当や休暇などで不合理となる可能性があるように思われます。

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