法律のいろは

2017年1月14日 更新残業代・賃金

残業代の先払いを手当てでする際の問題点(その③)

 残業代の先払いをする制度(手当)が問題となるのは,従業員の方が退職後に残業代の請求を行った場合です。この場合に,残業代の先払いがなされていれば,その部分は支払う必要がないことになります。そのために,有効な先払いといえるかは大きく問題となります。最近の裁判例でも判断がなされているところです。今回は,裁判例の一つを紹介しながら,触れていきたいと思います。以下では,事実関係は裁判所が認定したことを前提とします。

 

 問題となったのは,スーパーマーケットを営む会社の元従業員から会社に対する残業代の請求です。入社時には雇用の契約書がなく,労働条件通知書には「調整手当」という名前があったこと・その従業員の入社後時間がたってから残業代の先払いという制度ができたこと・その従業員の方の入社後に給料体験の変更が行われれ,基本給などの減額が行われつつ,残業代の先払いの制度が就業規則上設けられていたという点に特徴があります。ちなみに,残業代請求が行われた期間は,給与体系が変更された後の期間のようです。

 また,その従業員の方は,給与体系変更の際に基本給の減額と残業代先払い制度を設けるという点の同意書を欠いていたため,この同意書が有効かどうかも問題となっています。

 このケースで,「調整手当」が残業代の先払いの意味を有していたかどうか・給与体系の変更が有効かどうか等の点が争点になりました。実際のケースではもう少し複雑で争点が他にもありますが,ここでは単純化します。

 

 まず問題となったのは,給与体系変更の前からあった「調整手当」が残業代の先払いの意味を持っていたかという点です。このケースではこの手当が残業代の先払いの意味を持たない場合には,給与体系の変更によって,残業と関わりなくもらえた給料の減額幅が大きくなり,給与体系変更が有効かどうかにも大きくかかわってきます。

 

 結論から言えば,残業代の先払いの意味は認められませんでした。残業代の先払いの制度もなく,「調整手当」は別の意味があったことが主な理由です。給与明細では,残業代の調整の意味でかかれていたという反論が会社からなされていますが,これだけで後々から意味が変わらないと判断されています。

 

 次に就業規則で行った給与体系の変更についても,有効性を否定しています。有効であれば,個別の従業員の方にも効力を持ちます。

 その有効性を否定にするということは,就業規則上の残業代の先払いの制度は認められないという話になります。これは,給与体系を従業員側に不利に変更する場合には,不利益の程度に照らしてそうするだけの必要性がある,周知がきっちりと会社からなされていた・代替措置があった等の合理的なものといえる必要があるためです。これは裁判例で言われてきた点でもあり,現在は法律でも定められている点です。

 このケースでも以前は残業代の先払いはなかったという前提のもとで従業員側の不利益が大きいことや変更する点の会社側の説明・変更届に従業員側代表として書かれた方が会社から選ばれただけであった点などを考慮して,合理的ではないから変更は有効ではないと判断しています。

 

 そのうえで,就業規則上は変更されていなくても,個別の同意書(その従業員の方が給与体系の変更に同意をした)から変更は意味を持つかを判断していますが,この点も否定しています。昨年の最高裁の判断で,従業員側が十分な情報などを持たない点を考慮し,単に同意をしたという形があるだけでは不十分で,変更による不利益の程度や会社からの説明の程度,変更の経緯などからその従業員が自由な意思で同意をしたと言えないと有効な同意ではないというものがあります。この枠組みから,先ほどの不利益の態度や変更の背景,会社からの説明の内容等を考慮して判断をしています。

 

 固定残業代の制度をどのように設けるのか・どのように機能させるのかは,このケースでも出てきたような後で問題とされかねない点をどう考えていくのかを踏まえて,制度を考えていく必要があるでしょう。

 

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