法律のいろは

2020年4月24日 更新残業代・賃金

個別の残業代の放棄や給与の引き下げなどの雇用条件の変更を行うときの注意点

書面での合意の意味合い

 よく,後でトラブルを防止するために書面を取り交わしておくことは重要と言われます。取引をする際や賠償に関して支払いとともに清算条項と呼ばれる,今後お互いに請求をしないことを確認する項目は後日の紛争防止のために意味は大きなものです。雇用関係についてもトラブルがないのが一番ではありますが,同様の側面はあります。

 また,契約をするにも内容を変えるにも,書面の取り交わしがないと言った言わないの話になりかねませんから,法律上書面が必要なものもありますが,書面での取り交わしは重要になってきます。

 

 雇用契約については法律や裁判例のこれまでの蓄積から,単に書面の取り交わしで済まないところがあります。ここに注意する必要があります。

 ちなみに,雇用契約の内容の変更は個別の方と書面を取り交わす(合意をする)ほかに,就業規則の内容を変更する方法もあります。これは,法律上就業規則は合理的な内容であれば雇用契約の内容になるので,その変更は契約内容の変更にもなるためです。合意と異なり,就業規則の変更自体は事業主・会社側が一方的に行うことができます。従業員に有利になる分には問題はありませんが,不利(どこまでが不利なのか自体で問題が出てきます)な場合には問題が大きくなります。

 詳しくは別に触れますが,就業規則の変更の場合には法律・裁判例によって大きな規制をかけられています。そのため,就業規則を作るのはいいのですが,変更についてはハードルが存在し,その対応を考えていくことも重要になってきます。

雇用契約における注意点

 雇用契約については,事業主側が有利な立場にあるということから,個別に合意や書面の取り交わしをするときにも単に合意があればいいというわけではないと考えられています。裁判例の中には,雇用契約での従業員に不利益な内容(どこが・どのように不利益なのかという問題があります)である場合,単に合意があるだけでなく,従業員側が合意をするのが普通だと考えられるだけの事情を要求しています。

 これは何かといえば,単に書面で合意をして署名があればそれでいいという話ではなく,合意に至った事情や経緯の外に,話し合いの経緯や代償となる対応があった等,一般的に見ても同意しただろうと考えられる事情が必要ということになります。様々な事情を考慮しての評価という面が出てきますが,書面で問題となる待遇・事項ごとに確認は重要になってきます。

 

 こうした点は裁判例にも表れています。例えば,残業代を示したうえで代償を与えるなどして放棄をしたという場合・退職を伴う場合には説明会を開催し優遇した内容での退職をする機会を与えるから放棄をするということを説明の上書面で確認したという場合等には,こうした自由意思であろうと評価される事情が存在する可能性が高くなります。単に,書面で「一切の請求をしない」という文言を入れておけばいいというわけではない点に注意が必要です。

 何かしらの代償措置やそれに基づき放棄を求めたこと・その他の経緯や関わる方の認識等様々な事情が問題となります。後でトラブルを避けながら(ここでは,請求を受ける可能性と受けた場合に放棄の合意が認められない可能性を考えることになるでしょう),どのような対応が必要になるのか考える必要があります。

 

 先ほども述べましたように,残業代や給料だけでなく,その他待遇などを下げるときには,そうした必要性を裏付ける事情の外,同様に合意を自由な意思でしただろうと考えられる事情(話し合いの経緯や提示した内容等)もきちんと整理をしておく必要があります。

就業規則の変更による場合

 上で述べたのは個別の合意の話ですが,就業規則を変更する場合は法令及びこれまでの裁判例上で規制があります。細かい話は先ほどの個別の同意と同じくケースごとの事情によりますが,一般に問題となるのは,待遇を下げる場合です。先ほども触れましたように,そもそも本当に待遇を下げることにつながるのかということ自体が問題になる可能性も十分にありえます。

 とはいえ,後でトラブルになりそうな待遇の変更の場合には,規制に引っかからないように対応をしておく必要があります。ここでいう規制に引っかかるという話は,先ほどの規制をクリアできないと判断(最終的には裁判所での個別の紛争の中での判断となります)が出た場合,就業規則の変更による待遇の変更が認められないことになるというものです。

 

 ここでは簡単に触れておきますと,変更をするだけの必要な事情が存在するのかどうか・変更後の内容が合理的なものかどうか(不利益な待遇変更といえるのかどうか,不利益になる程度や内容がどのようなものか)・不利益な待遇変更に対する代償措置を講じているのかどうかとその内容,他の待遇の変更内容など・従業員側との話し合いなどの状況・その他業界などの状況を踏まえて判断をするとされています。

 どの事情によって決まるというわけではなく,総合的な判断になりますが,変更の必要が生じて内容などを検討することになるでしょうから,その段階でトラブルになりそうかどうかという話と内容や説明事項などをきちんと検討しておく必要があるでしょう。

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