契約内容はどのように決まるのでしょうか?
特に,雇用契約には限りませんが,契約が成立した際には,法律で契約で定めるべきとされている点について合意がなされている必要があります。口頭でも十分なものもあれば書類が要求される場合もあります。雇用契約の場合には書類は不要ですが,紛争を避けるには書類を作成しておいた方がいいです。また,この後紹介する裁判例でも触れられているところですが,雇用契約の場合には,会社側の方が優位にあるという前提の下で,当初の話から話が変わったというのは従業員側が受け入れるだけの事情を要求する傾向が一部でみられています。
ここでは相互の合意を周りの事情も含めて裁判所がこうだろうというところを判断しているといえるでしょう。
求人票と雇用契約書との間で記載が異なっている場合に,求人票の内容で雇用契約が成立したと判断したケース
労働条件通知書は,雇用契約の際に会社側に従業員側に渡すよう義務付けられている書類です。渡していないケースもあるようですが,トラブルの元です。今回取り上げるのは,手渡しており従業員側から説明を受け了解をしたというサインはあるものの,求人票と内容が異なる場合です。通常であれば,最終的に合意をした内容で契約が成立したのではないかという話になりますが,雇用契約の性質も踏まえてどうなるのかが問題となりました。
詳細は別途当事務所の事務所報で詳しく取り上げるので,ここは概略のみを触れておきます。問題となったのは,放課後児童デイサービス事業等を営む会社が新しい事業所を立ち上げるために,ハローワークで勤務する方を募集したものです。問題となる求人票と労働条件通知書に記載の違いがあるのは次の点です。
求人票⇒「正社員」「雇用期間の定め無し」「定年制無し」
通知書⇒「期間の定め1年で更新することがある」「65歳で定年」
応募してきた方が64歳の方(65歳が定年で期間の定めがあるとそこで終了になります)で,争点は何点かありますが,ここでは,雇用契約の内容がどちらの内容に従うのかという点のみを触れます。
このケースでは,求人票の内容から通知書の内容へ変更されると勤務期間が短くなりますから,従業員の側にとっては不利益な内容(どれだけ働けるかですから,重要な要素にはなります)になります。裁判例での判断では,通常は求人票の記載を見て応募があるのだから,特別な事情のない限りは求人票の内容で雇用契約が成立するという判断をしています。
特に不利益な内容を理解してきちんと合意をしたといえるのはそれだけの事情が必要であるという点を重視するものと考えられますから,実際には求人票と契約内容だろうという点がないように事前に詰めておいた方がいいでしょう。仮に異なる場合には,その点の説明とそれでも合意をしたことを示すだけの記録などが重要になるものと思われます。