法律のいろは

2022年11月3日 更新労働問題のご相談

外回りの担当者の労務管理の問題点(事業場外みなし労働制度の適用を認めた最近の裁判例を踏まえて)

○事業場外みなし労働時間の制度とは?

 従業員の雇用管理には業務内容や出退勤の管理・時間管理等が存在します。 事務所内での勤務の場合には把握できるはず(会社には把握義務があります)な一方で,外回りの場合には管理が難しい場合があります。 この場合の勤務時間に関する制度が法律上存在し,これまで様々判決が出されています

いわゆる外回りの従業員は,細かく社内システムやGPS・細かな報告と指示を受ける場合はともかく,管理が曖昧な形態の場合には勤務時間の把握が困難です。こうした場合に,担当業務に通常かかる勤務時間を実際の勤務時間とは関係なく稼働したものとみなす・労使の合意があれば合意した時間を稼働したものとみなす制度が,「事業場外みなし労働時間」の制度になります。

 

 対象となるのは,外回りであれば該当しますので,営業の方はもちろん・取材活動や調査活動を行う方・修理などの現業業務を行う方などが当てはまります。 ただし,深夜残業や休日残業はこの制度が適用されても,実際に休日や深夜勤務が出れば,この部分の「残業代」は生じます。 さらに注意点を言えば,この制度は該当する勤務管理形態の場合には,みなし時間をどの程度にするかを除けば当然に適用されます。

 

 この制度自体は,外回りであれば該当の可能性を残業代請求の場面で会社側が残業代が深夜や休日を除き生じないのではないかということで,適用される場合・適用されない場合がどのようなものであるのかは相当程度裁判例が存在します。

 これは,特に労使協定で予めみなし時間が決まっていれば,実際の勤務が深夜(午後10時から午前5時)・休日に及んでいない限りは残業が生じないことになるので,問題となったものです。

 

○事業場外みなし時間制が適用される場合とは

 先ほど触れたように,この制度が適用される場合かは各裁判例ごとの事情に応じて判断されています。 外回りであることはあまり問題にならないので「勤務時間を把握しがたい」と言えるだけの事情があるのかどうかが問題です。 行政機関や労務管理を細かく行っている場合には,いつ・どこで・何を行っていたのかを会社が把握し指示や報告を受けることもできます。 この場合には把握しやすいこととなります。

 

 この事情の考慮要素については,企画旅行における添乗員の業務が「把握しがたい」場合かが争われた最高裁の判断(最高裁平成26124日判決)が存在します。 ここでは,結論は把握しがたい場合ではないと判断されていますが,考慮要素として①従事している業務の性質や内容・業務遂行の状況など②会社と従業員の間で業務の指示や報告がなされている場合には,その内容や方法・実施の態様などを考慮して, 勤務状況を具体的に会社が把握することが困難と評価できるかという点で考えるとしています。

 この最高裁のケースではパッケージ旅行の添乗員の方についての話ですので,①パッケージ旅行ではいつ・どこに行くのかが細かく設定されている⇒添乗員の場所や時間の裁量が乏しい

②予めツアーで決められた場所と時間を守るように会社から指示があり,何かしら変更が必要な事態が生じた場合には添乗員から報告を会社に対して行い適宜の指示を受けることが決められていた。

③終了後は決められた通りツアーを行ったかの細かな報告を日報で行うことになっている

という事情がありました。 ①が最高裁の言う判断①に関わるもので,②・③は最高裁のいう判断②に関わるものです。 決められた時間と場所・業務の管理から時間把握は可能ということがここから言われています。

 

③最近の裁判例では?

 これに対して,最近医薬品などの販売会社のMR(医療情報の提供を業務とする方で,医療機関を回ることになります。 営業の要素もある仕事のようです)の方について,「事業場外みなし制度」の適用を認めた裁判例が出ています(東京地裁令和4330日判決)。

 このケースでは譲渡からのパワハラを受けたのかどうか・未払い賞与の有無(就業規則の変更が無効なのかどうか等が争点)といった点でも争点がありますが,以下では上の適用の関係のみ触れておきます。

 

 判決で認められた事実関係によると以下の点が特徴と言えます。

・業務内容が自宅⇒外回り先の医療機関⇒自宅ということが大半であった

・実際のどこの外回り先をいつ回るかはそのMRの方に任されていた

・週に1回業務内容の報告が要求されていたが,いつからいつまでどのような業務を行っていたかが含まれていなかった

・社内システムで稼働の事実確認のため出勤・退勤の打刻を要求していたが,その間のスケジュール管理はされていなかった(外回りのみ)

 

 この要素は上の2つが最高裁の述べる判断①に関わるもので,従業員がいつ・どこに行くか決める裁量が大きいことを示しています。 下から2つは,最高裁の述べる判断②にかかわるもので,業務報告や指示はあっても行った業務のみでいつからいつまで何をするのかという具体的な報告指示がないということを示しています。 この点から,勤務時間を把握しがたい場合にあたるとの判断を行っています。

 

 ちなみに,このケースでは事実関係として携帯電話を使った細かい指示などがあったのか(このことは従業員側で一定程度の証拠を出す必要があります)・社用車のGPSでの管理がどの程度であったのかも争いとなっています。 前者は証拠がなく,後者はこのケースでの把握できる事情は出勤・退勤の時間とその際の社用車の位置情報のみと判断しています。 つまり,細かなスケジュール管理はしていないということを示しています。

 

 

 このケースでは,外回りの方の業務と時間設計をある程度認めていたがために,勤務時間を把握しがたいと判断されています。 業務管理や報告を求める≠把握しやすいとはなりません。 あくまで具体的に業務の流れや時間が決められている場合・細かく指示と報告がある場合に引っかかることになります。 どちらの管理の仕方が望ましいのかは業務の種類等により一長一短でしょう。

 ただ,あくまで管理は厳しくしつつ残業代逃れは簡単にはできません。 これは裁量労働制度にも言えるところがあり,従業員の方の活用の仕方をどうするのかという方針と関わってきます。 ちなみに,残業代の請求の中で今回取り上げた制度によって休日や深夜も含めて残業代がなくなると勘違いしている方もいるようなので,制度の正確な理解と活用の仕方(有無も含めて)が重要になってくるでしょう。

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