法律のいろは

2022年7月2日 更新労働問題のご相談

固定残業代の有効性が問題となる場合(④,歩合給や長時間勤務を想定した場合に有効となるのかどうか)

長時間勤務を前提とした固定残業代は有効なのでしょうか?

 予め一定の残業を想定して残業代を給与に組み込んでおくという「固定残業代」の仕組みはこれまでその有効性が争われた裁判例は多く存在します。そこでは,①残業代部分と通常給与部分が識別できること②法律の規定に従って計算した以上の残業が支払われていれば問題ない,という二つのハードルを少なくとも要求しています。それ以上に,想定残業時間よりも長い残業時間に対し追加支払いをする仕組みがあったのか(実績があったのか)・長時間(特に過労死認定基準を満たすとされるかなり長めの時間勤務)残業を想定した残業代の場合には,固定残業代が無効になるのかなどがこれまで問題となってきています。

 このうち前者はそれを要求するかのような趣旨の裁判例が存在する一方で,先ほどの①・②以上には制度の仕組みとしては必要ないとする(つまり,清算実績がなくても有効と据える)裁判例も数多く存在します。後者についても高等裁判所レベルで裁判例の判断は分かれています。深夜・休日を含めた割り増し給与となる規制には,長時間勤務を抑制する目的があるのだから,特に過労死認定基準を満たす水準の想定残業時間はこの目的を反するとして,無効と判断する裁判例も存在します(東京高裁平成30年10月4日)。先ほどの①・②以上のハードルは必要ないというのが反対の判断の根拠となります。

 

 この後者の部分に何かしら影響がある可能性を含む裁判例として最高裁令和2年3月30日判決(国際自動車事件の第2次上告審の判断)が存在します。このケース自体は歩合給の算定に,売上高から経費を引いた部分に,固定給と歩合給の残業代を差し引いて計算をする仕組みが存在し,別途固定給と歩合給の残業代を支払うということが適法かどうか(仕組みが有効かどうか)が問題となったものです。このケースにはほかにも争点が存在します。

歩合給と固定残業代(最高裁の判断)

 先ほども少し触れました最高裁令和2年3月30日判決の判断は,残業代などの請求がなされた(タクシーの運転手が会社に請求をしたもの)についての二度目の最高裁の判断となります。一度目の最高裁の判断(最高裁平成29年2月28日判決)では,先ほど触れた①・②が有効性判断の指標になると判断しています。このケースでは,歩合給の算定に歩合給綾固定給の残業代部分を差し引くために,深夜や休日を含めた勤務を行って売り上げを挙げるほどに歩合給が下がる可能性を示すもので,残業代を割り増し給与とすることで長時間勤務を抑制する法律の目的に反するから,この歩合給の定めが無効になるのかどうかも問題となりました。

 一度目の最高裁の判断では法律の目的に反する(公序良俗違反)で当然に無効にはならないと述べつつも,先ほどの①・②をクリアする仕組みかどうかという点で考慮されると述べています。

 

  これに対し,二度目の最高裁の判断では先ほどの①・②も述べていますが,①でいう通常給与と残業代部分の判別のためには,残業部分への手当てとして支払われていることが必要であるという点を挙げています。この残業部分への手当てと言えるのかどうかは雇用契約書などの記載の他に給与体系におけるその手当の位置づけや手当の名称・算定方法を残業抑制のための割増賃金の趣旨を踏まえて検討するとしています。そのうえで,やや難解な文章ではありますが,おそらく,歩合給の仕組みが売上高から経費として残業部分を差し引くもので,長時間勤務抑制という法律の目的から逸脱していると述べています。そして,同様に難解な記載がされていますが,おそらく,通常の歩合給の計算の中で割増賃金(残業代部分)の差し引きが,通常勤務における歩合給と残業代部分の歩合給・固定給双方を含んでいるため,残業部分への対価として支払われているとはいいがたいから,通常給与と残業部分が判別できないと述べているように思われます。

 結局は先ほど述べた①を満たさない(判別できない)ことを理由とはしていますが,長時間勤務抑制という法律の目的趣旨に合致するかどうかも考慮はされているように考えられます。この意味で,それまでの裁判例と固定残業代の争いのない有効性の指標として述べている部分は同じではあるものの,要件が重くなったと見る可能性もあります。

 少なくとも,通常の歩合給算定にあたり,残業代部分を差し引く方法はこの判断からは難しいとは思われるます。第1次の最高裁なお判断と整合的に見れば,判別や金額が十分かに疑問を持たせない形での規定であれば有効になるのかなとは考えられますが,有効性判断には微妙な予測しがたい部分があるように感じられます。

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