法律のいろは

2022年3月26日 更新労働問題のご相談

パワハラスメントによる労災認定と会社側の責任への影響とは?

パワハラスメントによる労災認定への影響

 パワハラスメントは現在の法令上,①暴力②暴言③人間関係からの疎外④私的な事柄への過剰介入⑤過大な業務を負担させる⑥能力からみて過小な業務しかさせない,ことが挙げられています。正当な指導との境界が問題になるケースや事実関係がどうかが問題となるケースがあります。こうした事実関係や正当性の話とは別に一定の事実が存在する場合に,業務上の危険が現実化したものとして労災認定がされるのか・現実化した場合に会社側が義務違反を問われるのかといった問題があります。

 

 これまでも上司による叱責等が原因で精神帝な疾病になったという方についての労災認定を受けるのかどうか・会社側が賠償請求を受けるのかどうかが問題になった裁判例は相当数あります。その中でまずは労災認定を受けるかどうかが一つの問題になります。別のコラムでも触れていますが,業務上の様々な負荷原因が精神的な疾病につながったのかどうかについては,厚労省が出している業務による心理的負荷表が一つの参考になります。この表は中身に大きな変更はありませんが,いわゆるパワハラに関する法制化がなされたことを踏まえて令和2年に改定がなされています。この表の考え方として,「ストレスー脆弱性理論」という考え方(ストれる要因が大きければ個別の負荷への弱くなる要因の影響は小さい)というものに依拠し,出来事のタイプごとに心理的な二の程度の大中小を定めています。改訂前からいじめなどについて定められていましたが,改定後はパワハラスメントとして具体例の中に上司からの暴力・人格否定発言・こうした事柄が存在するのに会社が適切に対応しなかった場合が挙げられています。この具体例は心理的負荷の程度が強・中・弱とある中で強に位置づけられるもので,労災認定につながる可能性が高くなるものです。

 露骨な暴行や暴言はともかくとして,指導として正当と認められるのかどうかは前後の流れやその場でのやり取りの内容によります。また,会社側に問題となる言動や対象となる方の状況を把握していたにもかかわらず何ら対応していなかった場合には先ほどの「強」に位置づけられるエピソードになります。労災認定にもつながりやすくなりますが,対応をとっていない点で賠償請求の原因となる義務違反につながる可能性も高い要因となりかねません。

 

 ここでのエピソード・心理的負荷の原因は精神的な疾病の発症前6か月以内に存在したものが想定されています。そのため,発症時期がいつ頃なのかが重要になります。我慢強く仕事をする方については当然あまり医師の診察を受けない(SOSを出さない)ことがありえます。この場合にはいつ頃に発症したのかはかなり分かりづらくなります。裁判例の中にはこうした場合に,その方の職場や家庭での言動の変化などを根拠におおまかな発症時期を特定するものがあります。

会社側の対応として注意すべき点は?

 パワハラスメントについては中小企業についても行政規制が令和4年4月から強化されることになります。ここへの対応という意味もありますが,先ほど触れましたように心理的負荷表そのもので会社側の対応が適切になされないことが「強」という評価を受ける時効とされています。パワハラスメントにあたる事項の整備や該当行為を行った場合のリスクを研修することは重要ですが,業務上必要な指導との境界が問題になることもあります。また,従業員の態度いかんによっては強い指導が必要になることはありえますし,裁判例の中にも業務上の必要性があって強く指導した場合であっても会社側の賠償責任を否定したものもあります。

 もちろん,そうはならず肯定されたものもありますので,従業員側の問題がどの程度なのか・指導としての注意はどこまでであれば強要されるのかの共有は重要になってきます。大声で怒鳴り続ける・ノルマ達成ができないからと夜遅くまで業務をさせるということはリスク要因が大きくなりかねません。いった言わないという点の話もありますし,やり取りの一部だけが録音をされていることもありえます。録音は重要な証拠の一つですが,一部分だけ切り取るのはやり取りの中身が不明になってしまうこともあるので,その重要性が小さくなる場合もあります。業務日報その他で問題となるやり取りがなされているのかをきちんと把握しておく必要があります。

 

 また,相談窓口を設けている場合には,訴えのあった場合にはきちんと事実確認を行うとともに,日常業務におけるその従業員の方の同情で気にかかる点があればきちんと把握をしておく必要があります。暴行や強い叱責はリスクを伴うものであるとの理解,業績拡大にどの程度つながる可能性があるのかという点の検証を行い,そのバランスで何がいいのか(お金の賠償以外に公表その他による評判面でのリスクがありえます)を考えて社内体制の整備を行う必要があります。

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