法律のいろは

2021年12月29日 更新労働問題のご相談

勤務時間がどのくらいなのか争いになる際に,ポイントとなる事項は?いくつかの残業代をめぐる裁判例から

○勤務時間管理の仕組みと実際の時間管理

 

 勤務時間の管理は雇用者側の義務とされていますが,外回りで時間把握が困難な場合(この場合はみなし時間の適用がされるかが問題になります)・出退勤のみ監理・タイムカードで管理・ノートなどアナログな方法で管理・日報での管理(アナログや社内システムへのログインやログアウトで管理)等様々な方法がありえます。

 その中には,残業許可を厳格に行うケースもあれば,曖昧な管理がなされるケースもありえます。

 

 最近は様々なアプリや勤怠管理ソフトが出てきたことで,時間管理を行う方法は多様化しています。いずれも,勤務時間の証拠となりえるものです

○実際の裁判での証拠の評価や審理の方法。最近の裁判例では

 

残業代の請求の場合,いかに裁判と言えども本人の言い分だけあるいは極めて断片的な証拠・信用性の低い証拠に基づき,残業時間を認めることはありません。また,損害賠償とは異なり,法令上,主張する一定部分を割合的に残業していたと判断することもできません。

 

 一般に信用性の高い証拠は,継続的に記録されている・機械的に記録されていて編集や改ざんをしにくい記録,その従業員についての記録となっているものである必要があります。そのため,勤怠管理システムでの記録・シフト表やタイムカードは信用性が高い一方で,単なるメモとなると後で改ざんが可能なので,その信用性は低くなります。また,オフィスやサロン等テナントとしてビルなどに加入していて,警備システムの起動や解除を行っている事業所の場合には,この記録が考慮されることもあります。この場合には,あくまで最初と最後を示すのみなので,最初・最後までいるのがだれなのかを他の証拠から示さないと特定の方の残業を示すことはできません。

 本来機械的に・個別に勤務時間を示すものが一番信用性の高い証拠になりますが,一括して記録するよう指示していた・その裏付けがある(全員が同じ時間に出退勤しているケースなど)場合には信用性が低くなります。記録から個別の方の勤務時間の可能性を示すものとして,業務用の内容のやり取りを示すメールやライン・メッセンジャーのやり取りも意味があります。ラインのやり取りは気軽にできるということでされている方も多いでしょうけれども,時間を問わず送ることで拘束感覚を相手に与えるだけでなく,残業時間につながる可能性もあります。このほか,業務用で支給しているスマートフォンやパソコンでのログイン・ログアウト・アクセス記録についても同様なことが言えます。

 

 

 ごく最近の裁判例(東京地裁令和11023日)では残業代以外にも争点はありますが,残業時間についてスマートフォンのグーグルマップに関する付属機能であるタイムラインに基づく残業時間の主張に関して,信用性を認めたものがあります。ここで,グーグルマップのタイムラインとは,スマートホンのGPS機能を前提に,グーグルマップ上でのいつ・どこを訪れたかを記録したものと言えます。こうなると機械的な記録といえるところですが,あとで編集可能であるというところから操作の可能性がありますので,信用性に限界があります。

店舗などでの勤務の場合には,誤差はあるとしてもその付近にいることを示すものですので,本来の勤務時間を含む時間帯にそこにいたことを示す場合には,編集の可能性を裏付けるものがなければ相応の信用性を持つ可能性があります。

 このケースでは飲食店での勤務が問題となり,異動に関する記録が存在していないことや会社側とのトラブルの存在から,その正確性には問題があるものでした。このケースでもその点は触れつつも,店舗の営業時間を含むものである点や他の証拠との整合性・実際の勤務時間と異なる部分の具体的な指摘や裏付け・編集を行ったことを示す具体的な根拠を出していないことから,信用性を認めています。

 

 他のGPS機能を使った記録に関しても同様のことが言えるでしょう。残業代請求では退職時のトラブルもあり,編集の可能性を指摘したくなるところですが,編集の可能性を示すもの・多くは実際の勤務時間と異なる点を示す根拠があるのかどうかを確認することが重要になってくるものと思われます。個別の勤務時間をきちんと記録していないという点が編集を都合よく行っているという根拠になる点がポイントでしょう。もちろん,編集する旨の話が何かしらあればいいでしょうが,実際にはあまり考えられません。

 

 

 このほか,一定の期間をサンプル機関として苑での稼働状況が外でも同じであるとして,残業時間の有無などを判断したケース(東京地裁令和2917日判決)があります。このケースでは美容院に勤務していた方が退職後に残業代の請求をしたものですが,会社側・従業員がサンプル期間での勤務形態や時間が同じであることを争っていないという点で特徴があります。

 ここを争うと,結局個別の日常的な勤務の形態や勤務がどうであったのかを問題にする必要が出てきます。美容院に限りませんが,営業時間がはっきりしていて,休憩時間の過ごし方・練習や講習がルーテイン化している業態には当てはまる可能性があるでしょう。ここでは営業時間と比べての紙業終業の実態がどうであったのか,朝礼や終礼の有無や時間・終業後の掃除・受付時間終了後にいつまで施術していたのか・繁閑がどうであったのかという点が問題となりえます。業務時間終了後や休日の練習や講習は勤務時間とされる場合には,そのカレンダー(グーグルカレンダーなどのアプリ上のものを含む)の記録などが問題になるでしょう。ちなみに,カートモデルを使った練習や講習は自主参加の意味合いが強いか・強制といえるかがポイントです。カートモデルへの報酬や謝礼の負担をだれがしているのか・参加しないことによる事実上も含めた不利益の存在があるのかどうかが重要です。練習・講習会≠勤務時間でありますが,技術確保を重視していると練習・講習会=勤務時間,となります。何を重視するのかは経営判断ですが,ポイントは把握しておいた方がいいと思われます。ちなみに,このケースでは不利益がないことやお金の問題から自主練習とされています。

 

 

 このほか,ドラッグストアに勤務していた方が残業代請求をしたケース(長崎地裁令和3226日判決)があります。このケースでは1か月単位変形労働時間制(シフト制)を採用していたことから,法律上適用されるのかどうかという点・始業,終業時間や休憩時間,研修が勤務時間といえるのかなど残業時間の長さが争点となっています。

 

 このケースでは勤怠管理システムでの打刻時間が存在していたため,そこからの例外を認めるのかが問題となりました。メールの送信時刻や店舗の警備システムの起動・解除の時刻の存在,その前提として一定範囲の勤務時間とするように打刻を修正した形跡があるのかどうかがポイントとなったものです。結論から言えると,修正の痕跡があることを踏まえて,警備システムの起動解除の時間等の証拠から一定の打刻時間以外での残業を認めています。

 研修については,業務と関連があるものかどうか(ここでは商品知識に関わるもの)・費用の会社負担や参加が事実上強制されていた点を考慮して,勤務時間に該当すると判断されています。ちなみに,退職時の参加費返還の合意は法律の禁じる違約金の合意として無効とされています。

 

 

 ここから言えることは,勤怠管理システムの信用性や修正や不可解な一致などの特別な事情がない限りでは肯定されるという話になります。警備システムの起動や解除から特定の方の勤務は裏付けられません。メールやラインのやり取りは残業を基礎づけるものですが,基本的にはその内容も踏まえてどこまで認められるか(指示の合った範囲が原則です)という点で枠は狭いものです。

 

 

 

 残業の有無を営業形態や勤務形態からそう考えるのか・記録として何が重視されるのか,相手の言い分に対して反論となる資料があるのか・勤怠管理システムも正確性に疑問を感じさせる事情があれば,限界は存在する点は意識しておいた方がいいでしょう。昔と異なり,手帳しか記録がないということもそこまでは考えにくく,様々記録用アプリややり取り記録を残すものがある点には注意が必要です。

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