法律のいろは

2022年3月29日 更新労働問題のご相談

自社で起きた労災に関して,役員・経営者層が賠償責任を負う場合はあるのでしょうか?

労災に関する民事の賠償責任の基本は会社の責任

 労災の原因について会社側の義務違反が存在する場合に,会社は生じた労災の結果(病気やケガ等)について賠償責任を負うことがあります。あくまでも,ここでは会社側による従業員の健康配慮義務(パワハラ・長時間勤務・過重な業務負担等)や安全配慮義務の違反などが問題となるもので,賠償義務を負うのはあくまでも会社になります。これに対し,個人事業主で従業員を雇用している場合には,雇用主としての義務を負うのはその事業主の方になりますから,個人での責任ということができます。

 

 会社の中にも規模や業務状況の格差が大きく,実質個人事業とほぼ同じものや零細な会社から大企業まで存在します。役員や経営層がいわゆる現場に出ている・現場の状況をしっかり把握しているところからそうではないところまで異なります。実際,労災事故について役員に対し賠償責任を求めるケースや場合によっては認められているケースも存在します。一般には,会社規模の小さな会社ほど日常的な業務の把握を役員がしていることが多いので,賠償責任の根拠にもこうした点が影響してきます。

取締役等経営層が責任を負う場合もあります

 会社の役員(ここでは法人税法上のみなし役員とは異なり取締役といった会社法上の役員のみ)については賠償責任を負う場合が法律上定められています。ここでの賠償責任とは個人としての責任という意味です。会社に対して負う場合や取引相手など第3者に対して負う場合です。もちろん,日常的な業務把握などをしておきながら無理な業務負担やパワハラと言う行為を行っていれば別途「不法行為」という賠償責任の原因が出てくる場合もあります。

 

 従業員もここでいう第3者に含まれますが,第3者に対し役員が賠償責任を負うのは,役員が会社に対して負っている任務(義務)の著しい違反が存在する場合であるなど責任を負う場合が限定されています。ここでいう任務にどのような内容が含まれるかが問題になります。労災事故の文脈では,少なくとも労災事故が生じないようなシステムの設計と運用を行うということは言えますが(パワハラであれば相談窓口の設置や指針を示すこと検収を行うこと,相談に対する対応等),会社規模によっては先ほども触れたように役員自身が日常的な業務指示や時間管理などを行っている場合には,こうした把握していることを前提とした健康配慮義務違反や安全配慮義務違反が問題となってきます。言い換えると,先ほど述べた会社側において問題となってくる義務違反と重なってくる部分が多くなっていきます。

 経営者が現場の状況をよく把握しているケースでは,業績の前身のために強くハッパをかけるなどした行為がパワハラや長時間勤務などの過重勤務を放っていた・作り出したのではないかが問題となるものが存在します。その中には賠償責任を負うのかどうか・その内容をめぐって裁判にまでなるものも存在します。それなりの規模のある飲食店を営む会社について役員や上司・会社に対するパワハラや長時間勤務による精神的な疾病や自殺に関する賠償請求がなされたケース,亡くなった方は店長であったもの(東京崔平成26年11月4日判決・LEXDB22522939)はいずれの方についても賠償責任を認めています。ここでは役員の賠償責任の点を触れておきます。

 このケースでは,役員自身が店長会議に出席して店長や店舗の状況を確認していたこと・毎日役員にいる本部に各店舗の売り上げなどを報告させていたことから勤務状況も把握できた状況であること・朝礼などにおける問題となる言動を把握できる状況であったことを賠償責任を負わせる前提となる把握していた事情(精神的な疾病や自殺に至る結果をと即できたといえる事情)としています。そのうえで,社内での長時間勤務やパワハラ防止のための研修や方向性を全く示さずにおいたことを社内体制構築や運用をしていなかったことに結び付けて重大な任務懈怠としています。ここでは健康配慮義務や安全配慮義務と重なっている部分が相当程度存在しています。

 社内の雰囲気や態勢といった点を整備するのは経営者の役目である点は否定できません。業績重視なのか内部の態勢を整えるのかは難しい問題ではあります。ただ,トラブルが続発することは人の確保にも影響が出てきますので,パワハラに対する行政の規制ができたことも踏まえて対応を考えるのも重要かもしれません。

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