法律のいろは

2022年3月24日 更新労働問題のご相談

建設現場で起きた下請け先従業員の労災事故について,元受け側が賠償責任を負う場合とは?

労災事故における賠償責任を負うのは誰でしょうか?

  労災事故が生じた場合に労災からの給付以外の民事上の賠償責任は基本的には雇用契約に基づいて生じる義務です。このことは現在は労働契約法という法律で明示されています。安全配慮義務と呼ばれる義務でこの違反が賠償責任の根拠となるものです。そのため,下請け先の従業員に労災事故が生じた場合に,安全配慮義務違反があれば雇用元である下請け先企業が賠償責任を負うことになります。元受け先の労災保険を活用することができるかどうかという話は民事上の賠償責任を負うのかどうかとは別物です。

 ただ,元請け先であっても,元受け先企業に入ってそこで指示を受け業務を行っている場合には,元受け先の従業員とあまり変わらない勤務状況ですので,当然に賠償責任を負わないのがどうかという問題が出てきます。実際に元受け先企業に対して,元受け先企業の現場で生じた労災事故について賠償請求がなされたケースについて最高裁が元受け先企業であっても下請け先の従業員に労災事故のb外相責任を負う場合があることを示したものがあります(最高裁平成3年4月11日判決・判例時報1391号3頁)。

 

 このケースでは造船所で稼働している下請け先の従業員が業務に従事したことでそこでの騒音によって軟調になったことについて賠償請求を行ったものです。このケースでは結論として元受け先の賠償責任(安全配慮義務違反を理由とするもの)を認めています。その理由は先ほど触れた,元受け先の現場で・元受け先の従業員と同じく元受け先の提供する道具を使って業務に従事し,元受け先からの指揮命令に従っていたこと・業務内容も元受け先の従業員と同様のものであったことがその理由です。このことゆえに特別な社会的な接触に入った(そもそもの安全配慮義務は契約にもづき特別な社会的な接触に入ったことを理由にするもの)から責任を負うとしています。

 このケースで元受け先が雇用元と同様の賠償責任(安全配慮義務を負う)根拠となる①元受け先からの指揮命令を受けていた②元受け先の従業員と同じく,道具の提供を受け・同じ現場で作業し同様の業務内容であったこと,のうち,どこまでの話が当てはまる場合に当てはまるのかという話が問題になります。

 

 ちなみに,ここでいう雇用契約に基本的には基づく安全配慮義務を根拠とするもの以外にも,元受けから下請けの従業員への監督義務その他の義務に違反している等の過失が存在する場合には別の根拠に基づき賠償請求を受ける可能性があります。この場合の義務が何であって・違反が何であるのかが問題になりますが,先ほど述べた安全配慮義務の拡張ともいえる根拠は当てはまるでしょう。

元請け側が賠償責任を負う場合とは?

 実際にどのような場合が先ほど述べた最高裁の判決が述べる「特別な社会的接触があった」と言えるかが問題になったケースがあり裁判例は複数存在します。そのうちの一部を触れますと,元受け先が発注した工事に従事中に亡くなった下請け先(孫請け先)の従業員の親族から元受け先に賠償請求がなされたケースで安全配慮義務も根拠として賠償責任を認めています(民事上の不法行為責任も認めています)。

 このケースでは,元受け先の従業員が現場監督人として常駐し孫請け先の従業員に指示を行い監督を行っていました。また,この現場監督人が孫請け先の従業員に労災防止のための指導を行っていたことや元受け先の労災保険に孫請け先の従業員を加入させていたこと,問題となった孫請け先の従業員にも元受け先の名前の入った作業服を支給していたという事情が考慮されています。このことが直接・間接の指揮監督関係があったと評価できることが「特別な社会的接触があった」という判断を示しています。建設工事や同等の状況がある場合には労災事故について元請けに安全配慮義務あるいは近似する別の責任を負う根拠となるものです。

 

 このほか,発注先企業の工場内での作業に従事し,そこで支給される道具を使って業務を行い・指導や監督を元請け先が行っていたケース(先ほどの最高裁のケースに近いもの)について,安全配慮義務その他を理由とした賠償責任を認めています。同様の話はアスベスト関係等の工事や作業への従事についても当てはまっています。

 

 こうした裁判例の状況に下請け先の従業員の監督や業務が当てはまるのかを考えていざ起きた際の事故の対応を考える必要があります。保険に加入している場合にはその活用を考えることになります。

 

 

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