法律のいろは

2019年10月27日 更新労働問題のご相談

退職時の引継ぎはどこまでさせることができる?違反がないようにするための注意点は?

〇仕事の引継ぎ義務を従業員は負うの?

 最近は退職代行や突然勤務先に来なくなるなど,退職時の意思疎通や引継ぎなどが問題になることの中身が変わってきているように思えます。情報や備品の持ち出しとともに退職時に問題となるこうした事項について今回は触れていきます。

 

 仕事の引継ぎはしてもらわないと業務への影響が出てくるもので,守ってもらうための仕組みを集魚規則等に入れている会社も多いかと思われます。一般に,就業規則に引継ぎ義務を定めておかなくても,引継ぎがないと何の仕事がどこまでなされたかわからず業務への支障が大きいこともあり,審議誠実の原則に照らして,引継ぎの義務を負うとされています。

 この義務違反があった場合には,そうしたことで会社側が被った損害の賠償請求はできますが,ここが実際にいくらになるかは算定しがたい面があります。業務に支障が出たにしてもそのことによる影響がどの程度で金銭に評価するとどうかという点が問題になります。
 また,引き継ぎ内容について会社側が具体的に指示をしないと分からないようなケースでは,そうした点の指示をしないとなると,従業員側も引継ぎができないということになります。こうした場合には引継ぎができなくなってきますので,損害や影響の原因は結局会社が作り出したのではないかという反論が出てくる点には注意が必要でしょう。

〇どの範囲で引継ぎ義務を負うのでしょうか?

 業務の完全な引継ぎという規定を就業規則に置くケースが通常と思われますが,こうした規定を置くこと自体には問題がなく,裁判例上も有効と判断をしたものがあります。

 完全な引継ぎというだけではわかりにくい点がありますが,その従業員の方が行っていた業務のうち,その部分の引継ぎを新たに業務を行う方にしないと会社の業務に影響を及ぼす事柄を指します。これだけでは抽象的ですが,例えば,営業の仕事であれば既存客への接触状況や見込みの状況・今後の訪問予定で決まっていること,開発担当であれば現在かかわっている業務の進捗状況など,支店長などの管理職であれば把握している支店など管理運営状況がそこに含まれるのは言うまでもありません。

 

 先ほど触れました会社からの指示を必要とする事項があれば,指示が必要になりますが,実際にそうしたケースがどこまであるかは微妙なところです。実際に裁判例の中にも,一部引き継ぎ業務を行った・会社からの引継ぎ指示が出ないのでそのまま退職をしたというケースで,そうした引継ぎ指示がないと引継ぎができない性質のものではなく・十分な引継ぎをしていないと判断をしたものも存在します。
 ただ,トラブル防止のためには,どういった引継ぎが必要なのかをおおよそ指示をしておくことで漏れとトラブルをなくすことが重要でしょう。退職と引継ぎでトラブルになるのは,一斉退職や間に誰か入ることで意思疎通が難しくなる場合が考えられます。前者の場合には,特に業務への影響が大きくなりますので,その旨と指示をしておくことは従業員側への大きなけん制になると考えられます。また,後者についても伝言ゲームのようによく分からないことがないように,きちんと伝えておく(ここには返還を求めるものや情報管理の点での確認も重要になってきます)ことは重要な意味を持つでしょう。

〇引継ぎを促すような方法は?

 突然の退職を防ぐ方法として,退職期間を申し入れから1か月あるいは2カ月にするという就業規則の定めを置いてある会社もあるかと思われます。ただし,この規定を置いていても,正社員やパートで勤務契約期間(例えば,3か月の間のみ勤務)等の定めがない場合には原則として退職の申し出をされてから2週間で退職となります。同じことは勤務契約期間を置いていても更新後の場合に当てはまります。
 したがって,この規定を置いていても限界があります。そもそも退職申し入れがないということを会社が主張・従業員が退職したというケースでは大きなトラブルにつながる可能性があります。

 次に,賠償額の予定,つまり違約金の定めを置いておくという考えもありますが,これはそもそも雇用契約で行うことが禁止されています。ペナルティもあってそもそも使える方法ではありません。せいぜい,過去の前例で大きな賠償請求を受けたことを研修してもらう程度で周知をしておく程度の話と思われます。賠償請求の場合の大きな問題として,退職した方が行方不明になった・全くお金がない場合には回収面での問題が残ります。

 

 このほか,退職金を減額する・支給しないという規定を退職金の規定・就業規則に入れておくという方法があります。この場合には,完全な引継ぎ義務とともに違反の程度に応じて不支給や減額をするという規定を入れておくことになろうかと思われます。
 この場合の注意点は,引継ぎをしないということが減額や不支給につながるのは,退職金の性格を踏まえたうえでの個別のケースでの違反の内容次第であるという点です。これは,退職金が性格上は過去の給料の後払いや特別の貢献に対する会社から従業員へのお金の支払いと考えられていて,複数の意味合いを持っているためです。給料の後払いという要素がある・強い場合には減額は懲戒処分でもない限りは難しくなってきます。これに対し,特別な貢献への報酬という場合には減額がしやすくなります。ただし,この場合も裁判例上これまでの特別な貢献をなくすほどの違反,つまり引継ぎをしていないこと・それによる影響が大きく存在したことが必要となります。

 特に,退職金によるある勤務年数によって増えていく場合には,特別な貢献があったと考えられる場合が多くなります。ここではその方の仕事内容や立場も踏まえての引継ぎをした内容やしないことでの影響の程度,他に連絡が取れなくなった場合はそうした事や備品持ち出しや情報持ち出しなど他の問題行動も踏まえて,特別な貢献をなくすほどであったかを考えることになるでしょう。ちなみに,懲戒解雇などの事情がある場合には通常は貢献をなくすほどの事情があったと考えることが多くなるでしょう。
 退職金の減額や不支給の規定は引き継ぎ促しに有効な面もありますが,いざ問題ケースが発生すると運用が面倒な点もあります。もっとも,引継ぎがない場合には他の問題行動もあるケースが多いでしょうから,あわせてどうなるかという話になるでしょう、ちなみに,これからこうした規定を入れる場合には従業員に不利益な就業規則の変更になりえますので,後々変更が有効に行われたか問題にならないよう対策をしておく必要があります。

 このように,仕組みと運用が重要になってきます。

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