法律のいろは

2019年2月8日 更新労働問題のご相談

年次有給休暇の取得義務化への対応はどのようにするとよいでしょうか?

はじめに

    昨年(2018年)成立した一連の働き方改革に関する法律の関係で,年次有給休暇を会社が従業員に1年で取得させることが義務化されます。今回は,年次有給休暇の意味や改正の内容・対応について触れていきます。

 ちなみに,働き方改革に関連する法律改正による制度は2019年4月から順次実施され,中小企業ではしばらく猶予されるものもあります。しかし,この有給休暇を5日間取得させないといけないという制度変更は2019年4月からどの企業でもスタートする点に注意が必要です。

年次有給休暇とは?

 そもそも,年次有給休暇は,従業員が健康的な生活を送れるように,法律上認められている休日以外に給料が出る状況での休みを保障する制度です。日本では年次有給休暇の取得割合が少ないから,取得割合を増やすために今回の制度改正がされた経緯があります。

 誤解がないように言うと,年次有給休暇を取る権利は6か月の継続した勤務をし,うち80%出社をすれば当然に従業員に認められる権利です。「時季」(わかりやすく言えば,季節と具体的な時期のことを言います)を指定して,つまり休みをこの季節あるいは○月○日から×月×日まで取りたいと会社に申し出ることで実際の休みの時期が特定されることになり,休みの取得となります。

 ただ,これでは会社の業務運営に大きな影響が出る場合もあるために,取得時期の変更を生じさせるために会社には「時季変更権」というものが存在します。簡単に言えば,この時期に休みたいという申し出についてその時期を変更(一部の変更も可能)させるという意味を持ちます。簡単に変更できれば年次有給休暇の意味がなくなるため,そう容易には認められません。

 ・休みたいという申し出をした従業員の行っている仕事が会社業務の運営に不可欠で

 ・代替要員の確保を会社側が努力してみても難しい場合(言い換えれば,代替要員確保のための措置が必要)

に認められます。ちなみに,会社業務を行う上での重要な研修を行うことが前から決まっていた場合には,その研修に欠席しても支障がない場合を除けば,時期の変更を会社側が行うことはできるでしょう。

 また,例えば,長期休暇(1か月程度等が一つの例)を請求された場合には,会社としては当然業務計画や他の従業員の休みの調整(小さな会社にとっては影響が極めて大です)が必要だから,会社の裁量は広く認められるとの裁判例があります。こうした場合には年度当初から調整を図っていく必要が出てきます。

 現在年次有給休暇は取得率が低く,繰り越しがなされることや買い上げの希望が出されることが出てきます。このうち,繰り越しは2年の時効にかかるものの認められています。この2年については現在期間が延びるかどうかという点の検討がなされており,今後の動向に注意が必要でしょう。また,今回休んでもらうようお願いする義務を会社が負うことになった5日間は繰り越しの対象ではありません。

改正の内容は?

 改正の内容は,年次有給休暇を10日以上付与されることになった従業員に対して,付与をした日から1年以内に,5日の有給休暇を時季を定めて実際に取得させる義務を会社側が負うというものです。違反には罰則が科される形となります。言い換えると,従業員からこの時期に休みたいという申し出がなくても,会社側から時期を指定して休んでもらうようお願いする制度ということができます。もっといえば,管理職を含め全従業員が対象となり,休みを強制できないものの,実際に休んでもらう必要が実際上あるという制度になります。

 実際に対象となるのは,1週間の所定労働時間が30時間を超える方については,勤務開始から6か月経過した方になります。30時間を下回る方は,週の所定勤務が5日以上であれば,勤務開始から6か月経過した方であるのは同じです。これに対して,週の所定勤務日数4日であれば勤務開始から3年6か月以上経過した方・3日であれば,5年6か月を経過した方になります。1週間以外で所定勤務日数が決まっている方はここでは省略します。一部アルバイト・パート勤務の方でも入社から6か月経過すれば対象になる点は注意が必要です。

 また,会社が実際に取得してもらう時季(要は1年のいつ頃取得してもらうのか)を決めることになっていますが,可能な限りその従業員の意見を聞いて決めるようにと法令で定められる予定です。

どのように対応すればいいでしょうか?

 対応について重要なものとしては,特に中途採用の方が多い会社では管理が煩雑になるため,管理しやすい制度設計を行う必要があることです。また,従業員側から自主的に休みを取りにくい職場については,計画的にとってもらうようにすることを考える必要が出てきます。この話自体が相当複雑になりますので,ここではごく簡単に触れておきます。

 また,会社から休みを取ってもらうための制度ですから,従業員側が休めない・休まない場合には再度別の時期を設定することや最悪出勤しないでもらうという対応もありうるところです。
 まず,5日間の休みの時期を指定するスタート地点を整理するかどうかという話があります。年次有給休暇のスタート時点は法律通りであれば,先ほど触れた話での一部パート勤務の方を除けば,勤務開始から6か月経過してとなりますが,当然これではいつから年次有給休暇の対象となるのかは従業員ごとでバラバラ(5日の指定義務が出てくるスタート時点についても同じ)になります。そこを避けるために,年次有給休暇を与える日を一緒にしてしまうという方法があります。この方法をとるには就業規則での定めが必要ですし,煩雑さをなくすために,この日にちをどこにするのか・一年度に複数回与えることで,入社月の違いによる調整を行う等検討する点が出てきます。

 こうした統一的な取り扱いをする場合には,入社した際すぐに年次有給休暇を付与するという決め方もできます。先ほどの5日間休んでもらうという扱いはこの場合は,入社から6か月経過後ではなく入社時まで繰り上がります。この方法は採用にあたってのPRとなりうる反面,自社に適応できない場合にうっかりと休みを取得されるということになりかねません。その意味で,入社一年目は法律通りとして2年目から統一的取扱いにするという設計もありうるところです。いずれにしても,ここでは詳しくは触れませんが,統一取り扱いをする場合には決め方により管理の煩雑さを避けるため,工夫が必要となってきます。

 次に,従業員ごとにいつ休むのかをスケジュール化しておく・その意向を尊重した形にしておく・休みを自発的にとりにくいのであれば,休みを計画的にとってもらう必要があります。スケジュール化にはカレンダーや計画表での管理が必要となるでしょう。特に,個別の人ごとに交代で休みをとれるようにすれば,業務への影響も少なく休みもとってもらい易くなります。また,各従業員の意思を尊重することについては,各従業員に予め休みを取りたい時期の希望を書いて提出してもらい(届出る形になるでしょう),会社はその記載を尊重して計画表を作ることになります。この場合,各従業員を入社月ごとに管理していく必要が出てきます。

 こうした計画して休みを取ってもらう制度は現在も存在します。計画年休という制度で,労使の協定(休みの時季,つまり季節と具体的な時期の定めが必要)があれば,一斉休業・交代での休暇・個人の計画休暇をとれるようにするというものです。この方式でも5日間は各従業員の個別の意向で休みを取ってもらうことになりますが,10日間以上は少なくとも存在するはずの年次有給休暇の日数のうち,計画年休制度を使って会社側から休んでもらった場合でも先ほどの5日休んでもらう義務を果たしたことになります。注意点は,計画年休とは併用できない制度である,時間単位の年次有給休暇(事業場の過半数代表の方との労使協定で1年に5日分を限度に,時間単位での年次有給休暇の取得を認めるもの)をいくら使っても5日間の時期指定という会社の義務を果たしたことにはならない点です。

 こうした面倒な制度を使わず特に小さな会社であれば,先ほど触れた個人ごとに希望を出してもらい会社で調整をして休みの計画表やカレンダー作りをしていく方が簡単かと思われます。誤解があってはいけませんが、半日ごとの年次有給休暇を使うことでも5日間の時期指定を果たしたことになります。ついでに言えば,どのように時期が指定され,休みが取れたのかは一定期間記録を残す必要があり,管理や記録を残しやすい形にしておく意味は大きいでしょう。

 実際の制度設計をどうするか,従業員に休みを取ってもらいながらも,人手不足その他による業務への影響を抑えていくことは重要な問題です。今回はざっと触れたところはありますが,細かな導入は自社の状況や半日単位での年次有給休暇の取得でもこうした休んでもらう義務を果たしたことになる場合がありますから,制度の理解も深めながらの対応が必要となってきます。

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