法律のいろは

2021年10月7日 更新行政規制

任意で加入する経済団体や奉仕団体の会費は,所得税の計算にあたり「必要経費」計上は可能?最近の裁判例と法令の考え方とは?

はじめに

 会社ではなく個人で事業経営をしている方(筆者もこの中に含まれます)にとって,所得税の算定をするにあたり必要経費はどこまでなのかという話は気になるところです。所得税法等の法令の規定やその行政解釈(所得税法基本通達等)が存在するところで,通常税理士の方がこれら(主には行政解釈)に則って計算などの対応をしていることかと思われます。

 

 必要経費については,所得税法の規定が複数存在しており,どのように考えるのかについて紛争が起きているケースもあります。今回は,弁護士会の役員としての懇親会費などが必要経費になるのかが問題になった少し前の裁判例(東京高裁平成24919日判決)と弁護士がロータリークラブの会費を経費計上したところ,必要経費にならないと判断されたケース(東京高裁令和1522日判決)を取り上げてみます。

所得計算の方法と必要経費が問題となる理由とは?

 税理士の方が詳しいところなので簡単に触れておきます。ご商売をしている方の所得(事業所得・雑所得・不動産所得・山林所得)は,所得の種類(法律上10種類)ごとに収入金額を計上し,そこから事業経費など控除する金額を引いて,所得金額を算定します。ここでは損益通算と所得控除の話はおいておきます。

 ここで差し引く金額である必要経費は多ければ所得が減りますので,その範囲がどこまで含まれるかは計算において重要な意味を持ちます。山林所得や譲渡所得など別に規定のあるものを除く一般的な必要経費の規定では,①事業に直接必要な費用②その年に生じたいわゆる販管費やその収入を生じる業務に要した費用,が該当するとされています。

 ①はいわゆる原価を指すので直接必要な費用であるのは当然ですが,②はその年にかかったお金で,収入を得るためのご商売にかかったものを指します。他方で,細かい話は除きますが,収入(所得)とは日本の制度上,貯蓄+消費とされていて,家計のための活動や娯楽は収入ぬ含まれるもので課税対象です。法律上も「家事費」という個人のための消費は経費に入れないとされています。個人の消費と経費が混じっているものは,取引記録で区別されていること・ご商売に直接必要なものしか経費にはしないと定められています。

 

 今回触れる裁判例では,②についてその年に生じた費用というご商売との関係がやや曖昧なものについて,法律では要求されていない「直接的な必要性」(ただし,法律の規定に基づく政令という行政が定めるものでは区別として要求)としている点をどう考えるのかが問題になっています。あわせて,同じ会費でも会社や法人では経費(損金)になるのに個人では入らないことがどうなのかという点も問題になります。

 

 前者の話は,税務にかかわる法律では,法律の言葉に入っていない事項を考慮するのはおかしいという考え方との関係がどうなのかという話と個人のための消費は含まないという点をどう考慮するのかという問題になります。後者は,経費に含まれるのかという話で会社(法人)と個人で異なる点で不整合があるのではないか=経費(損金)ならば誰が使っても経費(損金)ではないかという問題です。

今回取り上げる裁判例の判断とケースごとの事情の違い

 今回取り上げる裁判例で問題となったものは,いずれも弁護士が自分の所得税の確定申告(個人事業主)をするにあたり,ご商売の所得について必要経費で上げた部分について,先ほどの②(その年に生じた費用で販管費にあたるもの)として挙げた懇親会費等・ロータリークラブの会費がそこに含まれるかどうかが問題になったものです。

 

 業務上必要な費用なのかという点と法令の解釈として,業務と支出との間に「直接的な必要性」が要求されるのかどうか(個人的な支出にあたるのか・商売に関連した支出といえるのか)が問題になっています。

 

 結論から言えば,弁護士会の役員としての懇親会費等の支出は必要経費性が肯定されています。これに対して,ロータリークラブの会費は必要経費性が否定されています。一見すると,どちらも個人的な支出にも見えなくはありませんし,広く見れば営業用の費用といえなくもありません。

 

 両者はいずれも団体加入(弁護士は弁護士として仕事をするために弁護士会に加入する義務があります。ロータリークラブは奉仕団体とされています。)をし,それに基づいて発生している点では同じです。異なる点は,弁護士会は強制加入であり,その役員としての懇親会費等も,弁護士会の活動との関わりがありうる(会の活動での懇親会)点があります。弁護士会を通じての法律相談等の点で弁護士の仕事の獲得や業務を円滑に進めるための活動がありえます。なかなか弁護士以外の方には伝えにくいところですが。。。

 これに対し,ロータリークラブは加入のための敷居は存在しますが,加入は任意であり,その活動も異論はあるかもしれませんが,社会奉仕のための活動とされています。そのため,建前としては弁護士の業務とのかかわりは希薄ということもできるでしょう。

 

 ただし,ロータリークラブ(これは,同じような性格を持つライオンズクラブなどや青年会議所(JC)等にも当てはまる面はあるように思われます)に加入する意味として,仕事の獲得その他業務につながることがあるというところがあるという主張もありうるところです。

裁判所の判断は?

 先ほど結論やケースごとの違いを触れました。弁護士会役員の懇親会費の件では,法律上は「直接的な必要性」を要求されていないことや弁護士会役員の活動と業務との関わり合いが一般的に存在することを理由に必要経費であると判断しています。ここでは,弁護士会の相談活動や職域活動その他業務改善活動といった弁護士会の活動と業務との関わり合いから,弁護士業務と費用支出の一般的な結びつきを認めています。

 

 後者については,結論から言えば,「直接的な必要性」を要求し,奉仕団体の活動と業務との関わり合いを否定しています。要は,業務につながる費用支出とは一般的には言えないという話です。このケースでは,費用性を主張する納税者側は,弁護士業務と奉仕団体としての活動の結びつきとして,・加入要件をクリアすることとして希少性がある・様々な方との交流により顧客獲得につながる,ことを主張しています。

 この言い分は裁判所により退けられていますが,私見として前者はさすがにあまりに抽象的すぎるかなという点があります。後者は業務との結びつきを示すものですが,単に人と交流するから営業につながるという話では,地域活動等個人的な活動であっても満たすことになるのではないかという点で,業務と個人的な話の区別ができなくなる・両方ともあてはまる点で欠陥を抱えているように思われます。ここの区別につながるという主張が必要なのではないか(具体的な話で)という印象があります。こちらはあくまでも判決文を見たうえでの話なので,実際の主張書面を拝見したわけではありませんが,個人的な支出ではなく業務経費であることを説得的に示すうえでは必要かと考えられます。

 

 ただし,後者の判決でも注意点があります。裁判所の判断では単に退けているレベルの話になっていますが,行政解釈それ自体(法人税法基本通達9-7-15の2等でも弁護士法人(一般から見ると会社)については,こうした団体会費も交際費などとして認めています。ここで交際費とは,事業に関連する費用として認められるものです。法令上の損金参入制限もあくまでも浪費防止なので,経費性を理由とするものではありません。交際費は,得意先等との間の接待等のために使うお金で業務を円滑に進めるためのものなので,業務と関係した支出と捉えられています。

 行政解釈で一方でこのように認められていること・先ほど触れた異業種交流団体としての側面を見れば,営業活動その他に結びつく面があることは否定できないでしょう。ここからすると,会費全額なのかまでは分かりませんが,個人事業主になると突然経費性を否定する根拠まではないように思われます。先ほどの裁判所の判断では,個人は会社とは違い消費をするからという理由を挙げていますが,このことをもって業務との関係性を当然に否定できるのかという問題は残るように思われます。

 

 

 この判断をもって各種会費の個人事業主としての経費性を否定しきれるのかという問題は残るように思われます。ただ,そのためには経費といえるだけの業務と支出の結びつきについての言い分を出すなどのハードルも存在しますので,どこまで行政サイドと争うのかはその負担や時間も考えたうえでということになるでしょう。

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