法律のいろは

2022年5月16日 更新事業承継

名義株が存在することの問題とその対応は?

名義株とその存在の問題とは?

 かつては,会社設立時に発起人と呼ばれる方が複数必要であったこともあって,設立者(通常代表者)以外に名目上株主になってもらうことが多く存在しました。実際に出資をしていなければ実際は株主ではありませんが,名目上株主として記録が残されることになります。会社法上は会社はどんなに小規模なものであっても株主名簿を作成し変更の都度書き換えをする必要がありますが,実際には作成されているケースは小規模な会社や一族経営の会社では少ないように思われます。その場合であっても,法人税の申告書の別表2と呼ばれる部分に法人税法上の同族関係者(株主の構成と割合で判定)かを判断するために,株主と出資割合が記載されています。

 ここに記載されている事項は株主が誰であるのか・どの程度の株式数を持っているのかの手掛かりとなるものです。ただ,名義だけの株主(名義株)かどうかの記載があるわけではありませんから,出資の記録が残っていない・その他書面を残しておかないと時間の経過とともに,その方が名義株であるのかどうかが分からなくなりかねません。

 出資関係の記録が残っていないことになると,誰も文句を言わずに時間が経過するとなると,名義の方が株主と考えるのが自然と捉えられかねません。そうなると,株式という財産を持っていることになるので,将来遺産に属するのかどうか争いになりかねない財産が存在することになります。また,持っている株式数によっては会社法上少数株主に与えられている権利行使を行うことができることになりかねません。割合などにもよりますが,総会の招集請求や会社の帳簿などの閲覧請求などを求める権利が存在します。そのうえ,株主総会は本来決議事項については開催しなければいけないのが原則ですが,原則に該当する場合でも開催していない・招集手続きに問題がある場合には株主総会で決めるべき事項(経営用の重要事項である場合もあります)の効力が覆る可能性もあります。裁判の可能性や問題への対応には手間がかかるため無視はできません。さらには,相続税法における株式の評価に影響を与えかねない場合もありえます。

 また,事業の引継ぎ(事業承継)を行おうとする際に,株式を後継者に集中させようとする場面では,名義株だと考えて株式を後継者名義に一方的に変更したところ,後で株主かどうかが争われた場合には,大きな紛争になる可能性があります。また,事業承継税制と呼ばれる贈与税や相続税の納税猶予制度を活用するための手続きをとっている場合にはその要件を満たさない(話が崩れてしまう)可能性があります。

 

 

名義株の整理と注意点は?(最近の裁判例では?)

 名義株の整理には,買取を行うことを考えることになります。事前に対策を講じておけば,そもそも出資を伴わない方かどうかわからないということはなくなります。現在は発起人の人数が一人でも構わないため,問題は少なくなるのではないかと思われます。問題は買い取り額とそもそも応じるのかという問題があります。話し合いがつけばいいのですが,そうでない場合に強制的に取得を行うことができるのかという問題があります。

 複数種類の株式をもうけて行う方法もありますが,そもそも複数種類の株式をもうけておらず,新たに設けるためのハードルをクリアできない場合には,株式併合という方法を使って1株未満の株主をつくる(株主でなくなる,スクイーズアウトと呼ばれるものです)方法があります。この方法は株主総会の決議(特別多数の決議)で可決する方法する方法がありますし,一定の事前事後の書類備えおき等をそろえる必要があります。また,現在の規制では反対を言う株主は事前の反対の意思を示すとともに一定期間内での買い取り請求を行えば買取を行う必要が出てきます。これは併合が可決される場合です。少数の反対者を保護するための規制です。

 

 株式併合がされる場合には,一定程度は少なくとも少数株主が締め出される要素はありますが,他に大きな目的がない場合には,可決した決議の効力が争われる可能性があります。無効あるいは取り消しを受けるとなると,併合の効力が覆されます。この記事執筆時点(令和4年5月)ではまだ係争中のようですが比較的最近の裁判例として,札幌地裁令和3年6月11日判決があります。このケースは名義株の話ではありませんが,名義株の整理についても当てはまる可能性はありえます。

 判決文から伺われる事実関係からすると,株式併合の決議が行われその後1株未満となった株式について特定のものに売却する場合には必要な裁判所の許可が行われ,買取人とされたから買取の申し出が行われたもののお金の受け取りを端数株主がしなかったというものです。このケースでの争点では,株式併合を行った決議に取り消すべき事由や無効となる事由が存在するのかどうかという点です。決議の取り消しは法律上,手続きの法令違反や著しく不当な決議内容である場合などとされ,無効は決議の法令違反などの場合です。簡単に言えば無効の方が問題が大きい場合になされるべきものです。

 また,決議の取り消しや無効を主張した方は,この決議に先立って反対の意思を示すことや決議に出席しなかったとのことです。このケースでは,株主である経営者一族の方に様々な対立が存在し,会社の帳簿書類の開示などをめぐる紛争も存在しているようです。

 争点となる無効となる理由として,①事前の書類の備え置きの不備(具体的には開示を求めている書類の開示拒否等が内容の法令違反になるのかなど)②併合の結果1株未満となった株式の買取などを行っていないことが決議内容の法令違反になるのかどうか③締め出し目的歯科併合の目的には存在せず,そのことで強制的に株主としての地位から追い出すのは株主の平等取り扱い(持ち株数に応じた平等取り扱い)を定める法令に違反している,そう言えるのかどうか,という点です。

 また,取り消しとなるべき事情として,株式併合で1株未満となるか文主と対立し,決議内容と特別の利害を有する株主のみしか決議に参加しないことで,著しく不当な決議になったといえるのかどうか,というものです。

 

 結論として,先ほど触れた裁判所の結論では無効も取り消しも認めていません。その理由として,無効の理由は決議内容の法令違反なので,書類備え置きが十分かどうかはそこには該当しない・買取を行えていない点は株式併合後の話なので,遡って決議の効力には影響しない・株主を平等に扱うのは持ち株に応じて平等に扱えという話であるので,持ち株に応じて併合を行う株式併合で平等原則違反はないというものです。

 次に著しく不当な決議になるのかどうかには,株式併合の目的が締め出し以外に正当な事業目的が存在しないことも該当するのかどうか・そもそも事実関係として正当な事業目的も存在するのかどうかを判断しています。そして,判断では事実関係として個人的な対立による締め出し目的ではないからという認定のもと著しく不当な決議にはならない⇒取消事由は存在しない,と判断しています。

 

 たしかに,書類の閲覧請求に応じないことは法令で事前の書類備えおきの内容になってはいるので,状況によっては手続きの法令違反になる可能性はあると思われますが,決議内容には関係がないように思われます。この裁判例の評釈中には,先ほどの判断を過度に一般化しないと述べるものもあります。また,事後の手続きは確かに決議内容自体とは関係がないように思われます。

 おそらく締め出されるだろう株式併合に反対する株主には買い取り請求を求める権利が存在するなど一定の救済手段が存在します。多かれ少なかれ締め出し目的が存在せずに,株式併合がなされることは少ないとは思われますが,こうした救済で十分ではない場合には少なくとも決議の取消事由になる可能性はあるものと思われます。先ほどの判決でも,取消事由となる「著しく不当な決議」になる場合として,締め出し以外に大きな理由がない場合を外していない(あくまで事実関係から否定)ところもあります。仮に,名義株の整理(少数株主との対立が大黄な場合,つまり,名義株であることを示せない場合になります)を行う場合にも,話がつかない場合(任意の買取ができない場合)には,株式併合のこうしたリスクに注意を行う必要があります。

 

お電話でのお問い合わせ

082-569-7525

082-569-7525(クリックで発信)

電話受付 9:00〜18:00 日曜祝日休

  • オンライン・電話相談可能
  • 夜間・休日相談対応可能
  • 出張相談可能

メールでのお問い合わせ

勁草法律事務所 弁護士

早くから弁護士のサポートを得ることで解決できることがたくさんあります。
後悔しないためにも、1人で悩まず、お気軽にご相談下さい。

初回の打ち合わせは、有料です。
責任をもって、担当者が真剣にお話をきかせていただきます。
初回打ち合わせの目安:30分 5,500円(税込)