法律のいろは

2021年3月1日 更新事業承継

事業引継ぎの方法(株式の活用や持ち株会社など)

株式の種類を複数設けるという方法

 事業を後継者に引き継ぐためには会社の経営権(決定権)を後継者に引き継ぐことになるため,株式の譲渡を行うケースが多くなるかとは思われますが,株式次第にあらかじめ複数の種類を設ける・その他株式について属人的な定めを設けるということも考えられます。ちなみに,創業者一族以外に株式が譲渡される可能性は億の会社で設けられている譲渡制限(会社側の承認がないと株式を譲渡できない)という項目で達成できますが,株式の買い取り等の点でトラブルになる可能性はあります。

 

 株式の種類を複数設けるとは,株式の種類ごとに一定の制限あるいは会社の取得に関する決まりを設けるというものです。この決まりは法律の定める範囲内で定めるということになります。この制度を導入するには,どういった種類の株式を導入するのか・決まりをどうするのかという話,そのための規制のクリアや導入する株式の注意点を考えておくなどの必要が出てきます。

 この方法は遺言でだれに何を相続させるのかという話とセットになることもあり,遺留分の問題への対応その他の考えからどのような方法をとるのかを考えておく必要があるでしょう。

 

 ではどういった種類の株式が存在するのかという話になりますが,①議決権を制限する②会社側が一定の事情が生じると買取ができるようにするといったものが,後継者の利益確保の視点からは出てきます。このほか,後継者以外の相続人の利益確保のために,拒否権を持った株式(その株主の同意がないと決定ができないようにする)というものも考えられます。

 

 ①については,後継者以外の方が相続する株式について予め議決権を行使できないようにするというものです。いわゆる黄金株と呼ばれるものです。これによって,役員の船員や解任・会社の重要事項の決定に関わることはできませんが,配当などを得る可能性は残ります。ただし,株主としての権利は行使できるものが残りますので,対立が生じた場合には面倒な可能性もあります。②については,例えば,会社側が請求をした場合には株式の買取ができるようにする(株主に拒否できないようにする)ということで,対立が起きた際に解消を図るイニシアテイブを残すものになります。①と②は相互に対立しないというか双方とも組みあわせて導入することができます。ただし,②は取得できる場合であっても法令上確保すべき配当可能財産がない場合には使うことが実際上できないこともありえますので,こちらへの配慮も必要となります。

 

 これに対して拒否権付きの株式は,後継者以外の方に一定の関与できる場合に活用するなどの使い道があります。このほかの株式の種類活用を含めて,誰にどれだけのメリットを与えるのかを考えて制度活用をする必要があります。

 

 種類株式がない中小企業は非常に多いと思われますが,新たに株式の種類を設けるのであれば,それなりのハードル(必要な賛成議決権の割合)がありますので,創業者(夫妻)が株式の大半を持っている際に合意をしながら話を固めていくのがいいと思われます。

 これに対して,特に株式の種類を設けない場合であっても,例えば,多数の株式を生前贈与で後継者に贈与しておきつつ,残る株式について創業者が株主の間には議決権の大半を握ることができるように定めを置く(定款に定める必要があります)ということもありえます。この場合には,創業者が決定権を握りつつ後継者に株式の生前贈与を行うことができますが,生前贈与と遺留分の問題が残るのでその対策も考えておく必要がありますし,創業者に残っている株式をその相続開始後にどうするのかなどを決めておく必要もあります。何よりも,創業者が認知症になるなど判断ができなくなった際に,会社の重要事項の判断を行う人間がいなくなるので(創業者が決定権を持ったままだから),この場合の対応策を考えておく必要があります。任意後見契約などの設定をしておくなどもその対応策の一つです。この制度の導入にも一定のハードルが存在します。

 

 いずれにしても,ニーズによって遺言や遺留分対策,保険の活用などと株式の定めや種類を設けることは組み合わせることが可能です。ニーズを決めてどういう方法が取れるのかを考えていく必要があるでしょう。

 ちなみに,非上場株式の評価の場面では先ほど挙げた黄金株などの株式の属性は反映されないのが一般的な扱いとなっています。

持ち株会社を作るという方法

 持ち株会社を作るとは,いわゆるホールデイングスカンパニーを作るということで,他の会社の株式を保有しその会社(グループ全体)の経営や管理を行う会社を作るという形態です。この場合に,創業者が新たな会社を設立しその会社に保有するすべての株式を現物出資することで,グループ会社すべての株主を新たに設立した会社にする・創業者はその会社の株主になるという形態が考えられます。このほかに,後継者が新たな会社を設立し,その会社が創業者が保有するすべての会社の株式を買い取るという方法も考えられます。

 後者の方法による場合には買取価格は流通時価によるのが通常ですが,そのためのお金を借り入れなどで工面をする必要があります。代金分が創業者の退職金代わりになる面があり遺留分の対応もこれによって可能となる場合もあります。

 前者の方法を使っても,傘下に入る会社の業績が良くなることで本来上昇するだろう株式評価額を仕組み上抑える効果も期待できます。ただし,例えば,事業承継税制における贈与税や相続税の納税猶予制度などは,資産保有目的会社(総資産のうちの70%以上が被事業用資産である・総収入のうち70%以上が非事業用資産からの収入であること,従業員の数が少ないこと)等の理由から適用を受けられない等,税制面で優遇を受けられないこともあります。課税面では後者について株式譲渡時の譲渡所得税(創業者)・相続税の際の課税という二重の課税が生じることもありえます。税務・法務のリスクを抑える点からはこの欠点の可能性は無視できません。

 

 このほか欠点としては,前者の方法によっては結局持ち株会社の株式について別途後継者への生前贈与や売却と合わせて遺留分の問題が出てくる可能性があります。結局は,持ち株会社設立前に一般に存在する株式集中等の問題は残ったままです。相続対策は別途いつ用というのがここでの話です。

 後者は相続財産から会社の株式を外すことには成功していますが,その資金の工面の問題があります。借入利息によっては利息分のお金が社外に流出しますし,傘下に入った会社からの配当いかんによっては返済に困ることで会社の今後に影響しかねないという点が最大の欠点です。

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