法律のいろは

2021年1月28日 更新事業承継

借金や売掛金未払い給与を抱えている際に事業譲渡のスキームを使う際の注意点

 

 よく会社の整理やM&Aの場面,残業代その他従業員などへの支払いがある(労務リスク)がある会社で,重要あるいはすべての事業を別の会社に譲渡する携帯がとられることがあります。

 引継ぎ先は,これまで使っていた事業をできれば同じ屋号などで行いたいと思う反面,支払いを求める権利を持っている側としては支払いを受けられない可能性が出るためトラブルになる可能性があります。

〇トラブル内容とその理由とは?

 事業の譲渡(一定の代金あるいは無料で自社の営んでいた事業を別の個人や会社に譲り渡すこと)以外にも会社分割という形を使うものもありますが,後者については規制があります。ここでは触れませんが,事業譲渡の場合と似た趣旨の規制です。

 

 これは,労務リスクの場合には,従業員の勤務先は同じなので支払いを求めても回収が難しい・売掛金や貸金についても同じような回収リスクが生じるという話です。労務リスクについては会社にとって不都合な従業員を残したままという可能性もあり,この面でもトラブルになる可能性があります。先ほどの会社分割という形態の場合には,労務リスク逃れを含めて明確な規制が存在します。

 

 事業譲渡の場合には,売却の代金が入ってきますので,そこから回収できれば問題がないという面があります。特に事業自体は黒字で魅力があるものであっても,借金その他を多く抱え支払いが苦しい自社のままではその支払いなどすら追い付かず先行きがないという場合には,このまま財産を食いつぶすよりという面があります。これに対して,各種支払いをしても実は余裕がある場合には,回収できるお金が少なくなるという問題があります。

〇規制の内容とは?

 

 法律上,詐害行為取り消しという,回収逃れを行う行為の効果を否定する制度があります。この制度自体はこれまでも存在していましたが,今年から法改正の内容が適用されることになりました民法の改正により一部内容が変更されています。ただし,これまでも破産の場面では考えられてきた内容です。

 

 その内容とは,適正な代金額でなされた売買は効力を否定できないというのが原則になりました。これまでは特に不動産の処分では効力を否定できるのが原則という裁判例がありました。ただし,例外があります。これは簡単に言えば事業や不動産などをお金に換えて,隠すなり使ってしまおうということを売り手が考えており,買い手もそのことが分かっていた場合です。当然ここでは隠す・使ってしまう可能性が実際問題として現実に生じたことも必要です。

 

 事業譲渡の場面でいえば,事業を早くお金に換えて,名目は不明ですが多くのお金を支払いに充てて流出させるスキームであった場合(買い手側もそのことを知っている必要があります)が例外に当たる話です。特に労務リスクや会社(売り手)が多くの負債をかけているかどうかは士業やコンサルタントが関わっているでしょうから多くの場合は判明しているものと思われます。そうした場面でこのスキームを使うことはリスクが伴います。

 ここでのリスクは事業譲渡の効果が否定されるというもので,代金を売り手が使う・他の債権者に回収されると,自分の支払った代金は回収できないというリスクを買い手は負うことになります。

 これに加えて,法律上売り手の会社から譲渡を受けた財産の評価額までの金額の範囲で,売り手の会社の債権者からお金の請求を受け支払い義務を負うことになります。こちらは,これまで引き継いだ事業について,名称や標識などを使っていた際に売り手会社が負っていた支払い義務を引き受けるものにプラスして負う形になります。

 

 言い換えると,こうした負担を逃げようと,引き継いだ事業について使う名称を全く別のものにしたからといって支払い義務を逃れることはできません。期間の制限はありますが,大きな負担となりかねません、

 代金額が適正ではない場合には,こうした規制を受けるケースに当たりますから,その評価をきちんと行う必要があります。この際には税理士などの専門家に帳簿その他をベースにした評価を売買の前にしてもらう必要があります。もちろん,事前に売り手の負っている借金や労務リスクのチェックを行う(こちらは弁護士に任せることになるでしょう)をしておく必要があります。売り手側のその後の処理(廃業を含む)とともにきちんとプランを立てておく必要があり,特に魅力ある事業を持つけれども問題や負債を抱える会社のM&A等の場面では注意をするべき話となってきます。

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