法律のいろは

2021年2月1日 更新事業承継

事業引継ぎと株式の問題(遺言の活用と遺留分その2)

遺言を使った対策方法

 遺言については,原則として相続発生時に相続人あるいは贈与を受ける方(前者が息子娘の場合,後者が第3者の場合)となる方が生存していることが前提ですので,仮に後継者にすべての株式を相続させる(遺贈させる)と記載していても,その方が亡くなっている場合には宙ぶらりんになる可能性があります。この場合には,遺言であらかじめその場合にどうするのかを定めておく必要があります(そうでないと相続人の間で共有になり遺産分割協議でだれが何を取得するのかを決める必要が出てきます)。

 事業の引き継ぎを準備しておくのは,不意に誰が引き継ぐかもわからない・わからないことでの混乱や廃業を防ぐことになりますので,遺言を使うならばこうした問題への対応が必要になります。もちろん,これとは別に遺留分に対する請求(遺留分侵害額請求)への対応も準備しておく必要があります。ここでは遺言をした時点からの株価の変動を考えておく必要がありますが,亡くなる時点に近接していれば小尾は少なくなるでしょう。

 生前贈与’あるいは売買の場合には,基本的にはこの時点で株主が変わります。仮に後継者が先に亡くなった際にその相続人が引き継ぐことへの問題があるのであれば,それに対応した条項を盛り込んだ契約書(合意)を準備しておく必要があります。ここでは,生前贈与あるいは売買の時点で遺留分の侵害がある話なのかを見極めたうえで対応を決める必要があります。時期によってはその後の株価上昇(こちらは後継者の努力を反映している部分もあるでしょう)の負担をどう回避するのかという点が問題となってきます。

 

 生前贈与あるいは売買を使っても別の財産について遺言で対応をしておくということもありますので,遺言と生前贈与あるいは売買はどちらかしかとることができないという話ではありません。他の財産があるのかどうか・その評価額・負債をどうするか(負債は指定をしておかないと法定相続分での引継ぎであり,かつ引継ぎ指定を知らない債権者には指定を主張できません)・遺留分の対応などを考えて内容を決める必要があります。

遺留分への対応方法は?

 遺言で指定をしているにしても,生前贈与や売買をするにしても,確定的に株式が引継ぎがなされている点は同じです。ただし,不動産を多く持っている会社(不動産の評価が大きくなる可能性があるため)や営業権が高く評価される会社などでは一般流通価格(時価)と複数の評価方式のある相続税評価額の乖離が大きくなる可能性がありますので,仮に相続税評価額で買い取っても不相当な負担付きの贈与という扱いとなって,遺留分侵害の問題が将来生じる可能性があります。

 相続税評価については,財産評価基本通達に定められた方法(非上場株式については同族企業かどうか・株主の属性・会社の規模などによって評価方法が定まります)に沿って評価をします。都市部に不動産を持つ・多くの不動産を持つ・新社屋を数年前に作ったという場合には,この不動産の時価評価や営業権を大きく一般流通(M&Aでの金額)では評価しますので,時価(法人税評価)と相続税評価との間で大きな乖離が出てくる場合もありえます。

 

 今後に作成する遺言や生前贈与ではあくまでも遺留分侵害額(侵害の有無は,遺留分の侵害があるという方も生前に援助を受けていたのかどうか・負債の金額なども影響します)に対応するお金の調整ということになります。将来の株価上昇への対応ということであれば,株価の評価を固定するという固定合意(民法の遺留分についての特例)を使う・除外合意(遺留分侵害を考慮する対象から外す)というという方法やその組み合わせ・遺留分を放棄してもらうということが考えられます。

 この要件は別のコラムで触れていますが,前者2つの合意は後継者が相続人でない第3者である場合にも活用ができますが,代償金額などを詰めたうえで書面で合意を行い(合意は相続人と後継者の間で行う,合意の時点で後継者は代表者である必要があります),経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要になります。遺言で他の財産がある場合にはその財産を取得させることで対応させる(将来の株価上昇の内容によっては,それでも遺留分侵害が発生する可能性はあります。株価が下がれば侵害の可能性がないこともありえます)こともありえます。この場合には代償として支払うお金の準備(財産の譲渡)のが必要になります。遺留分の放棄であっても,真意から放棄をするかどうかが考慮されるので,それだけの必要性や代償も問題となりえます。

 遺産や遺留分侵害の可能性がない生命保険の保険金を使っての対応もありえます。相続人が受取人であれば相続是の課税の対象にはなるものの,控除される部分もありますし,保険料についても会社で払うことによる損金算入など税務面での効果を得ることもありえます。ただし,遺産の半分以上を一時払いで保険料として支払う生命保険の場合には遺留分侵害で考慮される可能性もありえます。遺言で他の財産があれば,その財産を遺留分を持つ方に相続させるという方法もありますが,株式評価額の変動によっては限界が出てくる可能性があります。

 

 遺留分侵害請求は,相続開始後にそのことを知ってから1年(遺留分の権利を持つ方が知ってから)・相続開始から10年のうちであれば請求が可能です。言い換えると,当初問題がなさそうであったので放っておいたところあとで大きな負担になる可能性があります。法令の改正の関係で,改正前の話であれば株式共有の可能性があり,今後の話であれば思わぬお金の負担になりかねない点がありますので,税金の負担をどうするのかという問題とともに,法務リスクへの対応も重要になるケースがあります。

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